作品紹介

この世界はバグだらけ――
一般的には知られていない不思議な現象【バグ】
まるでコンピュータやゲームの様に、特定の場所、特定の条件下で、
特異な行動をとることによって、この世界にはバグが生じてしまうのだった。例えば幽霊、神隠し、ワープ。 等々。
そしてそのバグを利用する者たちもまた、歴史の中には多く存在してきた。
錬金術、黒魔術、陰陽道。
バグを利用したグリッチは、時代や国によって呼び方が異なるも、
それらは確かに、人類の歴史へ深く関わっていたのだった――そして現代、バグの存在を知るごく少数の者達が、バクを発見し修正する【デバッカー組織】を各地で設立。
主人公達の暮らす「色空市」でも、デバッカー組織【バグリオン】が、密かに活動を行なっていた――
本作は、私がXで情報収集している時にたまたま発見した、個人製作のゲームです。当時はまだ作品についての情報がそれほど多く出てはいませんでしたが、「シナリオも音楽もCGも、作者であるTFT様がたった1人で担っている」(→のちに、他スタッフも入ったとのことです)というマルチ才能っぷりが興味を引いたのと、それだけ本作に集中していながら、習作と称して定期的に高品質な二次絵を投稿される仕事量具合もまた気になっていました。

本作自体の設定の面白さやキャラの可愛さもあり、まったく初対面でありながら、私からもし翻訳者の方が決まっていないのであれば、英訳をさせていただけませんか?」と依頼のDMを送ったりしました↑
結果としては、すでに翻訳者の方が決まっていたために私は本作には参加していないのですが、体験版をプレイし終えた今となっては、やはり自分の目は間違いなかったな、という気持ちなのが正直なところです。満を持して登場した体験版は、極めて高レベルな水準でまとまっていました。
※体験版ではありますが、シナリオとして完結してしまうので、いちおう後半のシナリオは伏せます。
よくない点
どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。
…といってもですね、ないんですよ。これが、本当に。もちろんシステム面や演出面で言えば商業ゲームには及びませんが、同人ゲームとして見るなら「よくない」とあげつらえる部分が、本当に少ないんです。これまでどんなゲームでも必ず悪い点を挙げてきた私が、見つけられないんですよ。
なので一応、わずかに引っかかったことだけ、書かせていただきます。
ちょっとだけ気になったこと
私がプレイしたのは体験版です。
そしてこの体験版は、いわゆる「ひぐらし方式」。つまり、第一章を全てプレイできるというものなんですね。本作で言えば、個別ルートに進む前の、共通ルートを最後までプレイできるように作られています。物語序盤から積み上げてきた伏線がきっちりと回収され、一本の線に繋がります。オチもつきます。
だから、プレイ終盤に私が感じていたのは、「このままいくと共通ルートでシナリオが完成しちゃうのに、これ以上どうやって話を続けるの?」という疑問でした。ひぐらしと異なり本作はミステリではないため、鬼隠し編をプレイしても「何もわからない」などということにはならないのです。
しかし、杞憂でした。メインヒロイン2人ともに対して、重要でありながら本編では回収されなかった伏線が、きっちりと残されました。
それと、あえて言うとすれば、「高校生なのになんでどのキャラもプログラミング知識豊富なん?」ってことくらいでしょうか。私は話についていけない部分が結構ありましたよ。ただ、ここもあまり難しい単語が出ると主人公が疑問を口にして他キャラが解説する流れを丁寧に作ってくれているので、それほど気になるわけではありませんでした。
おすすめな点
とまあ、気になる点はこれくらいにして、次は良かった点について書きましょう。こっちはたくさんあります。
尋常じゃないこだわり
長セリフ中の表情変化

↓

↓

ここでは、セリフの途中でマコちゃんが3種類の表情を見せています。商業ソフトなら当たり前ですけど、これ手作業でやったらアホみたいな時間かかるはずですからね…(今ならAIが活用できるのかもしれませんけど、だとしても細かい作業は人力になりますし)。
主人公以外フルボイス
モブに至るまで声が入っています。担任やチンピラのような一場面キャラにも妥協がありません。演技水準も高く、個人的には、特にマコ役の方は突出していると感じました。またシナリオ後半で出番が倍増する某キャラクターの演技も、非常にハイレベルです。
例えば私のプレイしたゲームの中で言うと、結構昔にやった↓Crystallineなんかは小さいサークルでありながら長編をほぼフルボイスで完走しています(この時点では私はまだ実力不足で翻訳業をしていませんでした。懐かしいですね)。
これも海外製ゲームの中では高クオリティな声優陣が揃っていましたが、CLGLのそれはCrystallineよりもレベルが上です。このあたり、日本の声優さんの層の厚さを感じますね。アマチュアでこのレベルなんですか?って。
自作の幅と完成度
シナリオ・音楽・CGの大半に加え、オープニングアニメまで自作(!)とのことで、5年に及ぶ制作期間の重みが伝わってきます。後半は一部スタッフが加わっているとのことですが、作品世界の基礎体力は作者さんご自身の手で築かれていると受け止めました。また、それだけの多彩さでありながらどの分野のクオリティも高いです。
テンポの良さと先の気になるシナリオ
本作の良い点の1つに、導入までのスピード感が挙げられます。最初のVSチンピラで、主人公と親友キャラ、幼馴染キャラの紹介を一気に済ませ、世界の謎の提示、クレアや氷翠のキャラ紹介までもが凄まじいスピードで展開されます。
もったいぶって色んな情報を小出しにしがちな同人ゲームが多い中、本作は最初の十五分間で、基本的な設定やキャラクターが開示されます。これは意外と大事なことですよね。プレイヤーとしては、早い段階でシナリオに集中したいのです。
また、シナリオについて言えば、本作のようにシミュレーション仮説をテーマにした作品自体はよくあります。
例えば、↑シロナガス島への帰還なんかがそうですよね(これはこれで、凄まじい傑作です。プレイしないと損失が出るレベルに)。
しかし、本作はプログラミング・宗教・哲学など、広範にわたる分野を統合しつつ、終盤へ向けて盛り上がるようにシナリオが組み上げられており、その手腕が見事です。
「謎の提示」→「解決」→「新たな謎の提示」→「解決」…というサイクルを短いスパンで戦略的に取り入れていると思われ、1つの謎が解決したからといってリーダビリティを損なうことがありません。
蓮の体温が異様に低いこと、悠に対して誰もが「どこかで会ったことがある」と感じる理由、バグがこの街に異常に多い点など、次々に細かい謎が提示されるため読み手の興味がずっと持続します。


↑疑問が1つ解決すると、すぐさま次の展開へ。
実際、氷翠についてのある重要な情報が、思いのほかシナリオ序盤で開示されるのですが、そのことがプレイヤーの没入感向上に大きく寄与しています。並みの作り手であれば、これを盛り上がりどころと捉えて終盤に持ってくると思いますが、そうした場合、終盤の盛り上がりと引き換えに、序盤にプレイヤーが「自分事」としてシナリオに感情移入することを妨げる結果になるでしょう。ここは英断だと感じました。
キャラクターの掘り下げ
各キャラクターの性格・目的が明確です。ラストバトルに向かう前には、各キャラがそれぞれの動機に基づいて優先順位を付けざるを得なくなりますが、主人公勢は全員を助けたいため、「オールオアナッシング」を掲げてバトルへ向かいます。

とはいえ相手は強大。「あちらを立てればこちらが立たず」という状況にありながら、それぞれのキャラが相手を思いやる様は、目頭が熱くなるものを感じました。途中途中で挟まるanother viewが良い働きをして、各キャラクターの心情を見える化してくれるため、多角的に、どの立場のキャラにも感情移入してしまうんですよね。


↑ホラー要素もあるよ! 一押しキャラは氷翠さんです。
おすすめ度
おススメ度は、文句なしで10段階で10です。
面白いノベルゲーを探している方は、一度手に取ってみて下さい。後悔はしないでしょう。
まとめ
「ビンビンに尖っていて、欠点は酷いけど良い点がそれを凌駕するから差し引き10」というものではなく、「欠点がなく、全ての面が高水準である」という意味での10です。個人製作でこのレベルを出してこられたら、商業は困ると思いますね。
体験版だけで一つの物語としてきちんと完結している一方、共通ルートには未回収の「種」が丁寧に残され、個別ルートへの期待を自然と高めてくれます。率直に言って、「傑作」と評価したい作品です。
返す返す、英訳に携われなかった自分のスピード感のなさが残念でなりません笑
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