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日本語ゲーム多読の記録③-4【ライムライト・レモネードジャム(莉々子)】孤奏から合奏へ、“再出発”の物語

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 ↑この記事の続き。莉々子ルートの感想を。後半ネタバレです。

 

よくない点

 どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。

 

特定のワードがしつこい

 いくらなんでも「いい女」とか「最高の女」ってワードがしつこすぎません? このルート…。いや、いい女だし最高の女なのは読んでいればわかるし、間違いなくそうなんですけども、こう短いスパンで何回も何回もグイグイ押し付けられると、読んでいて割と本当にキツイです。

 同じ理由で、2回目(でしたかね?)の18禁シーンも、特定の淫語をこれでもかってくらい言わせ続けるのが…。

 好みの問題なのかもしれませんが、個人的には後半はずっと、これらのワードが登場する度に、「もう、いいでしょう。」って、ゲンナリした気分で読んでいました。せめて、ここぞという時だけにしてよ、と言いたかった。

 

 …あー、でも英語版でどんな風に訳してくるのかは興味ありますね。シンプルに、"a nice lady"→"a perfect lady"あたりにするかな? 全編通して出て来る大切な語ですから、訳者さんはかなり考えて決めるでしょうね。

 

 

おすすめな点

 はい、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。

 

単なる幼馴染から一歩進んだヒロイン像

 莉々子ルートが他ルートと決定的に異なるのは(※現時点でクリア済みなのは、恵凪ルート、杏珠ルートのみですが)、主人公が迷いを見せる側に回っていることです。バンドモノにつきものの作曲への苦悩を、満を持してこのルートに持ってきたか、という感じですね。他人の評価やバンドの方向性に悩み、立ち止まってしまう主人公。そんな彼に対し、莉々子は感情的に励ますのではなく、「隣で支える」という現実的な距離感を保ちながら手を差し伸べていきます。幼馴染だからこその気安さもありつつ、相手のペースを尊重して寄り添う、適度な距離感をキープする成熟した支え方が本ルートの根幹を成していると言えるでしょう。

 

 そしてそのスタンスは、物語が進むにつれ広報という立場と共に、強い推進力を伴っていきます。バンドの情報発信、ツーマンライブの提案、配信戦略など、現実的な課題を現実的な手段で物語を突き動かす役目を自ら選択した彼女は、恋愛の甘さや過去の感傷に溺れず、「彼の夢を支える」という行動で新たな関係性を築きます。このあたりの力強さこそが、彼女を画一的な幼馴染像で終わらせない魅せ方として機能していました。このブランドはやはりキャラづくりが上手いですね。

 加えて、彼女自身がまた過去との折り合いを模索している点もまた、物語に厚みを与えています。悩む主人公を甲斐甲斐しく補佐しながらも心の中で燻る小さな痛み。それを乗り越えるプロセスが物語の底に静かに流れています。

 適度な距離感で主人公を支え、時には彼のために道を切り開く中で、自らも少しずつ変わっていく──その温かい成長の描き方が本ルートの温かさを生んでいるのではないでしょうか。いわば「理解者」と「推進者」が同居したヒロイン像だというのが、彼女の総括です。ユーザーの求める「理想の幼馴染」らしいわかりやすいキャラの強さも相まって、本作の中でも一二を争う程魅力的に描かれていたと思います(たぶん、杏珠と莉々子の2人が人気キャラのツートップになるんじゃないですかね。2人とも王道を突き詰めたような魅力がある分、変化球の恵凪や月望よりも万人に突き刺さる気がします)。

 

“バンドは一人じゃない”を多面的に描く助演陣

 あと、本ルートは、キャラとは別にシナリオとしての満足度が高かったです。その理由は、主人公の再生が「恋人の力」だけではなく、「バンドという共同体の力」で描かれているからです。

 具体的な内容はネタバレになるので軽くしか踏み込みませんが、本作のハイライトは、主人公が作曲で行き詰ったシーンからいかに復活を遂げるかであり、だからこそシナリオもその部分の分量がかなり長めに取られています。もちろん、ヒロインである莉々子が奔走する場面もたっぷりと描かれるわけですが、それだけで終わらなかったことがこのルートを傑作たらしめているんですね。

 

 まず、象徴的なのは那優花の存在。彼女は同じ作曲者として、しかし技術論ではなく、もっと根源的なとある一言で雪鷹の独り相撲を止めてみせます。悩みの正体を理屈ではなく「構造」で示す彼女の言葉が、主人公を再び音楽へ向かわせるトリガーになるんですね。

 さらに、ライバルバンドであるGORを自然にシナリオに盛り込んで来る構成も秀逸です。彼らは批評でも競争でもなく、お互いを刺激し合う共闘者として主人公を支えます。ツーマン配信という企画自体が、作品世界の「音楽は分かち合うもの」というメッセージを体現している。
 加えて、スタジオオーナーであるヒロさんの存在も欠かせません。彼は場所を提供するだけでなく、いざという時頼りになる精神的な支柱となっており、本ルート以外でも助言を与えてくれる役目です。

 このように、莉々子ルートでは恋愛と友情、実務と理想、仲間意識と自己実現が有機的に絡み合っています。構図を恋人だけに集約せず、さらにはバンドメンバーにさえ限定せず、様々な人たちとの関わりの中で自分は音楽をやり、曲を作り、人生を歩んでいるのだという、現実的で温かい描き方が、物語全体の厚みを生んでいると言えるでしょう(ルート後半の、 衛哉が絡んで来る仕掛けについても、他ルートではなかった要素ですよね。まさかここであのネタが登場するとは、完全に不意を突かれました)。

 私がプレイ済みの2ルートもシナリオとしては及第点以上だとは思いますが、莉々子ルートほどバンドであることを前面に出してきたものはなかったので、なんなら本ルートがセンタールートだったか?と勘違いするほど、大団円感があったように思いますね。

 

おすすめ度

 おススメ度は、10段階で10です。

 今のところ全ルートでシナリオが王道ながら破綻なく及第点、キャラは当然ツヨツヨ。システム面ももちろんツヨツヨなので。残りのルートがよほど酷くなければ、このまま評価は下がらないですね。

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ネタバレ感想

 ※ここから先は、思いっきりネタバレしています。未プレイの方はご注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 せっかくなので、これまでの2ルート(恵凪・杏珠)と比較しながら、感じたことを書いていきます。
 正しい解釈かどうかはわかりませんが、あくまで私の現時点での解釈ということで。

テーマの核

恵凪:バンドは“救い”。母子の断絶という重い私事を、音楽=言葉(作詞)で乗り越えていく物語でした。曲は個の痛みを昇華するための灯火で、バンドはその灯を守る“場”として機能します。主人公とヒロインは、支え合う関係。2人は向かい合っているような構図です。

杏珠:バンドは“居場所”。テーマは思春期の自己肯定感と「自分らしさ」の揺れ。曲は“みんなで混ざって輝く”ための宣言で、バンドは居住地=家のように描かれます。2人は長い並走の末に“支え合い”へ合流。隣に並ぶような構図です。

莉々子:バンドは“関係の更新”。もともと存在していた“幼馴染”という関係が、日常を経て変化していく。曲は、他人の評価に怯える主人公が仲間の声によって再び立ち上がるためのもの。バンドは“個と個が再びつながる”ための媒介です。2人は、少し距離を取りながらも、同じ方向を見て歩くような構図になっています。

 

叙述の方法

恵凪:彼女の内面は、主に対話と行動、そして歌詞の開示で“外から”読ませています。Another viewをあえて使用しなかったのは、彼女の中にある「家族」へのわだかまりをプレイヤーに完全には明かさないことで、語られざる痛みを残すためでしょう。

杏珠:Another viewを多用し、“承認への渇き”や“自分らしさ”の迷いを逐語的に可視化。感情の揺れを追体験させることで、長い旅路の説得力を確立していました。

莉々子:Another viewは「無自覚な感情の芽生え」を描くために用いられています。本人がまだ気づいていない段階で、プレイヤーだけがそれを察します。杏珠ルートがヒロインの「内側の語り」を深掘りするためのAnother viewだったのに対し、莉々子ルートでは「距離感」を演出するために使われているとも言えるでしょう。
つまり、プレイヤーは観測者であり、変化の立ち会い人です。

 

ライブ/演出の軸

恵凪:ネット越しの“一方通行”を舞台装置にした救済劇。

杏珠:路上ライブやカバー演出による“鏡像構成”。

莉々子:ツーマンライブ+オンライン配信。ここでは「ステージの外」にいた莉々子が、広報としてステージを繋ぐ側に回ります。彼女の働きかけで、ライバルのGORと共演が実現し、主人公は停滞を抜け出すことになります。演出面では、恵凪ルートの「閉じた世界」や杏珠ルートの「自己内省」に対して、「外へと広げる」ベクトルが特徴的です。

 

歌が担う意味

恵凪:「誰か特定の人」への言葉。痛みを癒やすための歌。

杏珠:「みんなで混ざる」ための歌。居場所の明度を上げる合流の歌。

莉々子:「自分は1人ではない」と気づくための歌。このルートの曲「最終快速」は、この楽曲こそ、彼らの再出発を告げる曲でした。

 

 

まとめ

 莉々子ルートは、「隣にいる誰かと、もう一度つながる」物語でした。彼女は恋人であり、広報であり、バンドの仲間でもある。かつての「自己蛙化」という自責を越えて、自分を赦し、等身大で支える姿は、シリーズ中でもっとも(ユーザーの求める幼馴染願望をとことん盛り込んだ上ではありますが)現実的なヒロイン像といえるでしょう。

 

 最後に、莉々子ルートの曲「最終快速」について。

 私はこの曲を、外からの評価に怯え迷いの中で立ち止まっていた主人公が、仲間とともに再び“自分の速度”を取り戻す物語だと捉えました。テンポは軽快ながら決して速すぎず、勢いというよりも「推進力」を感じさせるリズムが特徴です。全員の音がしっかりと呼吸し合い、各パートが見せ場を持つ構成は、まさに「チームとしての一曲」という設計になっています。

 歌詞について言えば、前半では、他人の評価やSNS上の反応に心を縛られ、「レールの上を走るしかない」と思い込んでいた主人公の苦悩が描かれます。誰かにとっての格好良さを追い求めるうちに、自分らしさを見失ってしまった――そんな閉塞感が、淡々としたメロディラインに滲んでいるようにも感じられます。

 しかし中盤、主人公は「快速を見送る」という逆転の選択をします。それは、決められたレールから一度降り、自分の足で歩き出すという小さな決意です。この転換点こそが、曲のテーマを象徴しています。

1番終わりの間奏では、キーボードとギターが美しく絡み合い、煌びやかな装飾音で情景を彩ります。ここで感じられるのは、“停滞”から“動き出し”への一瞬の光です。前を向きつつある歌詞を挟んだ2番の終わりでは、ドラムとベースがいつもの屋台骨としての役割を飛び出し、前面に出てくるようなアレンジになっています。リズム隊が主旋律を引っ張ることで、「支え合う関係が、互いを前に押し出す」というバンドの一体感が、音そのものに表現されているように感じました。Cメロ。バンドの顔である恵凪の透き通った声が、シンプルな演奏の中にきらめきます。

 そして全楽器とボーカルとが再度相まみえる大サビ。ここでは、那優花、ヒロさん、GOR。彼らの姿が直接描かれるわけではありませんが、歌詞の行間からは確かに「支えてくれる声」が聞こえませんか? 「まだ行ける」というその声に背中を押され、主人公は再び立ち上がるのです。

 歌詞の中にある「同じ夢の君」とは、もちろん莉々子のことです。彼女が隣にいることで、主人公は「他人のために作る音楽」から「自分と誰かを笑顔にする音楽」へと回帰します。
 恋愛としての「支え」と、仲間としての「信頼」が同時に存在するこの構図こそが、莉々子ルートならではの温かさ。つまり「最終快速」とは、レールの外に生まれる自由なバンドサウンドの象徴であり、他人の期待を降りたその瞬間に、ようやく自分たちの音が鳴り始める――そんな再出発の歌ではないか、と私は解釈しました。

 総じて、恵凪ルートが「救いとしてのバンド」、杏珠ルートが「居場所としてのバンド」だとすれば、莉々子ルートは「再出発としてのバンド」。
 過去を引きずりながらも、それを抱えて一緒に進む――そんな穏やかな成長の物語でした。

 

 

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