作品紹介
さて、ついにクリアした『Summer Pockets』、通称「サマポケ」です。同社の過去作『Kanon』『Air』『CLANNAD』と同様に「泣きゲー」として知られ、オール ages(全年齢対象)作品となっています。
物語の舞台は瀬戸内海に浮かぶ鳥白島(とりしろじま)という田舎の島。主人公のHairiは、ある出来事から心に傷を負い、亡くなった祖母の遺品整理を口実にこの島へひと夏の間やって来ます。島ではどこか懐かしさを感じる不思議な日常が待っており、Hairiは4人のヒロインたちと出会って物語が展開していきます。夏の島を舞台に、「この夏休みが終わらなければいいのに」と感じるようなかけがえのない日々と、一人ひとりのヒロインに焦点を当てたドラマが描かれていきます
なお、後に追加要素を加えた『Summer Pockets REFLECTION BLUE』も出ていますが、そちらはプレイ当初steam版がなかったため、私は無印版をプレイしました(というか、RB版の存在すら知りませんでした💦)。
必要英語力など
推奨英語力:TOEIC780~、英検2級~
ゲームプレイ開始時点の私の英語力は、TOEIC905点でした(英検は1級の一次試験には通ったものの、二次試験で敗退。一次試験の語彙パートで22/25を取ったことや、語彙測定サイトでの結果などから、私の受動語彙は1万語と少し程度だと考えられます)。
他の日本発ノベルゲーと同じく、TOEICで780点もあれば十分。英検準2級だとさすがに単語レベルできつくなり物語に集中できなくなる恐れがあるので、せめて2級程度の語彙力は必要でしょう。
ただ、本作は特に序盤の語彙が極めて平易なので、最初の数時間で波に乗れたなら、後は多少英語力が不足していても全然ついていけると思います。逆に終盤は、Key特有の幻想世界がふんだんに登場しますので、日本語版でプレイしたとしても解釈に悩むシーンが続出することになるでしょう。特に無印版は余白がかなり多く想像の余地が残る場面が頻出するため、あれこれ想像しながら楽しむのが好きな人には向いているんじゃないでしょうか。
推定プレイ時間:70~80時間
Keyの長編らしく、結構長いです。それでもCLANNADと比べれば全然短いでしょう。
本作にはミニゲームが2つほどあるようですが、私はいずれもスルーしました。それらをプレイして、かつRB版だったら、いったいどれくらいかかるんでしょう。
終盤は涙をこらえながらだったり、解釈に悩みながらだったりの牛歩でしたので、人によってはもっとサクサクプレイができるはずです。
よくない点
どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。
序盤のノリのキツさ
正式なKey作品なので(キネティックノベルではないという意味で)覚悟はしていましたが、やはりこれはかなり辛かったです。Kanon、Airの頃からずっと賛否両論でしたが何年経ってもここを変えるつもりはないんだろうな、という…。
いや、日常パートがギャグだらけなのは全然良いんですよ。むしろそういうのは嫌いでじゃないので。私がキツイと感じているのは、ヒロインの奇妙な口癖とか年齢に対してあまりにも痛すぎる言動・行動です。
↑Hairiの名前を聞いた途端、なぜかそれを歌詞にして歌い出すTsumugi。これはキッツい…。口癖のMugyu!も悪い意味で酷いし、シナリオを進めると今度はポテチの容器でベランダを作るとか気の狂ったことを言い出す始末。痛いなんてものじゃない。
他にも、スーツケースに座った自分を初対面のHairiに運ばせる女とか、島のPAシステムを私物化して上空から水鉄砲を撃ちまくって来る女とか、朝ごはんはチャーハンしか作らないガキとか、三食カップ麺しか食べないオバ✖✖とか、痛すぎるキャラ付けのオンパレードで、こんなものは泣きゲー黎明期なら通用していたでしょうけど、本作が出たのって10年前ですよね。当時どう受け止められていたのか心配になります。
もう20年以上も前ですが、私が初めてプレイしたKey作品であるKanonの舞ルートとかもね、当時まだ十代だった自分でも読み進めるの苦痛でしたからね。。。まあそれがKeyの味なんだと言われれば、それまでです。
↑こういうネタは全然好きなんだけどね!
(※ただし、上記の中に後になってみれば実は意味のある言動・行動もありました。こういうギャグシーンの中に重要な伏線をぶち込んで来るのも、そういえばKeyの得意技でした)
↑このシーンーHairiが自分がこの島にやってきた理由を初めて自覚し、言葉にした序盤の山場―までは、かなり辛い時間が続きます。プレイ時間にして5時間くらいでしょうか? 逆に言えば、ここでようやく本当の意味でサマポケが始まるのでした。
「グロテスク」さ
これは、ネタバレの章で記載します。こればかりはノベルゲーというか、ギャルゲー全体の宿命ではあるのですが、本作はその宿命と真摯に向き合ったがために、よりこのグロテスクさを際立たせる結果になった、と私は感じました。
ある意味、何かから逃げ続けている本作のキャラクターたちの、アンチテーゼとしての制尺者の想いの現れだったのかもしれません。
「主人公」の位置づけ
これも、ネタバレの章で詳しく記載します。Key作品における主人公の位置づけには、昔から統一性がありました。最近はキネティックノベルしかプレイしていなかったので完全に忘れていましたが、そういえばそうだったなぁ…と。クリア後にしみじみと感じました。
おすすめな点
はい、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。
英訳が上手い
本作、英訳の上手さが光るんですよね。それは主に日本語のダジャレを英訳するシーンで如実に表れています。
↑これは「居住スペース」を「巨乳スペース」と聞き違えるという場面ですが、英語版では"where the bed is"を"where your boob is"と聞き違えています。
他にも本作ではダジャレがわりと多様されるのですが、その都度異なる確度で英訳がなされていて、なかなか鑑賞していて味わい深いものがありました。あんな風に英訳できたら、脳汁が止まらないだろうなぁ~。
約束された高品質
なんといっても物語後半の盛り上がりと感動の質でしょう(グランドルートのことです)。Key作品らしい王道の泣き展開ですが、その涙の質がどこか優しく暖かいものでした。テーマとして「郷愁(ノスタルジア)」や「母娘の絆」が物語の根底にあり、単なる恋愛の喜悲よりももっと普遍的で深い愛情が描かれているからだと思います。これもまた、Key長編の十八番ですよね。
何もかもがハッピー!とは言えないエンディングに感じましたが、それでもなおプレイ後には悲しさよりも、「人生の宝物のような夏の思い出をありがとう」と作品に感謝したくなる、そんな感動を味わえました。
演出の説得力・没入感も特筆すべきポイントです。ビジュアルや音楽のクオリティが高いのはもちろんですが、それをシナリオ演出に効果的に活かしています。例えば物語の要所要所で挿入されるCGや背景の切り替え、BGMの盛り上げ方が非常に巧みで、「ここぞ!」という場面で一気に引き込まれました。個人的に痺れたのは、とあるルートで観られる花火のシーン。暗闇に打ち上がる大輪の花火と、照らし出されるキャラクター達の涙ぐんだ横顔…文章だけでも胸に迫るシーンですが、実際に視覚と音で体験すると破壊力が段違いでした。演出が物語の説得力を高め、プレイヤーである私自身もその夏の一員になったような気持ちにさせてくれました。「ゲームでしか味わえない感動」をちゃんと演出してくれる点で、本作はとても完成度が高いと思います。
おすすめ度
おススメ度は、10段階で7です。
と、それでも本作は、他のシナリオゲーと比較すると、それほど点数は上がりません。上述した「よくない点」が本来素晴らしいはずの個別ルートを1つ潰している点と(本来感動させるべきはずのシーンでMugyuMugyuMugyuMugyu五月蠅い某ヒロインと、シリアスシーンですらPairiなどと呼んでくるそのお友達のせいでね)、主人公の役割が個人的な嗜好から外れている影響が大きいためですね。だからこそ、私はあえてRBをプレイしようとは思いませんでした。
とはいえ、それはあくまでも私の趣味に合わなかっただけであり、物語全体の質で観た場合には、相当高い評価になるはずです。実際、巷での人気の高さは目を見張るものがありますからね。
ネタバレ感想
※ここから先は、思いっきりネタバレしています。未プレイの方はご注意。
“Umiという生存者バイアス”——選ばせるためのグロテスクな美談
ここからは完全に私の主観というか、怒りと称賛がない交ぜになった本音です。正直、無印をクリアして最初に覚えた違和感は、
「結局ぜんぶUmiを生かすための“製作者側の都合”じゃね?」
という軽い嫌悪感でした。
Umi=“唯一選ばれた子”という構造
本作において時間跳躍の力は鳴瀬家だけで、他ヒロインにはタイムリープを打破する手段が与えられません。Shirohaが力を使わなければUmiは存在しない、しかし製作者は当然〝存在する未来〟にプレイヤーを誘導します。
代償として、「過去の選択肢」である他ルートは必然的に“微ハッピー or ビター”止まり。Kamomeは死亡、蒼は眠る、紬はそもそも思念体。Shiroha以外は決定的な「家族」を得ることができない物語なんですよ。だって、もし彼女たちがShirohaと同様に、Umiのような娘を(あるいは息子を)得る可能性が残ってしまったら、Umiが生まれるルートを正史にしづらいじゃないですか。その点、彼女たちのルートが悲しい結末で終わるのならば、Hairiが彼女たちとの夏を経験した上で、最後にShirohaルートを選ぶことに説得力が出る。要するに、Umiは生存者バイアスの象徴なのですよ。
「こんなに尊い娘がいるんだから、このルートこそ真実でしょ?」
という製作者の声が透けて見えた時、プレイヤーとしては少なからず“選択を強制された”気分になるわけです。実際、私はそうなってしまいました。
それでも高く評価したい理由
と、ここまで書くと「Umi偏重の出来レースだからダメ」と切り捨てたくなるんですが、私はむしろ、いわゆる“選ばれなかったヒロイン問題”に真正面から向き合った点を高く評価したいとも思っています。
KamomeやAo、Tsumugiたちは“選ばれない”世界でも 何かしらの救済 を得る…。
Poccketsルートで彼女たちが再び笑顔を見せる余白を描いたことで、
「消えた世界=無意味」ではないことを最後に残してくれたのは「粋」でした。そうなったことに何の説明もありませんでしたが。
いわゆるギャルゲーは昔から「他ルートは存在しません」と言わんばかりにヒロインをパラレル処理してきた歴史があります。本作についても、その問題に真摯に向き合いながらも、上述のとおりUmiが「製作者にとっての最適解」であるために他ヒロインの幸せが抑圧されるという点がこの作品の限界であると言えます。
しかし、それでもなお今作は、全ルートを同じ夏の複数回として束ね直すことで、ヒロインの想いをなかったことにしなかった、その挑戦自体が尊いと思うのです。「選ばれなかったヒロイン問題」への精一杯の回答として、「選ばれなかった夏にも意味はある」と肯定しつつ、なおUmiを選ばせる。
その矛盾ごと受け止めるか拒絶するかをプレイヤーに選ばせる。これがグロテスクでなくてなんだというのでしょうか。
Hairi という “観測者”
正直に言うと、Hairiの受動性は最後まで私の好みではありません。
決定的な場面で奇跡を起こすのはいつもヒロインの方で、彼はただ涙を浮かべながら(あるいは気づきすらせず)その瞬間を見届ける役に徹しているだけです。プレイ中、私は何度も「主人公なのだから、もっと自分から動いてほしい」とヤキモキさせられました。
しかし、冷静に振り返ってみると、この「動かなさ」こそKeyが長年守り続けてきた矜持ではあったんですよね。「泣きゲー」の黎明期において、ユーザーは主人公を自分の分身だと考える傾向にあったので、我の強い主人公は敬遠されがちでした。実際、Kanon の祐一、Air の往人、CLANNAD の朋也。彼らもまたヒロインの願いを受け取り、最後には“語り部”として舞台の袖に下がっていく存在でした。主人公はヒーローではなく、黒子として物語を押し出す媒介であれば良い──Key が創業以来貫いてきたスタンスは、本作でも健在だったのです。
さて、しかしながら、その象徴を良い意味で裏切ってくれたのが、Pocket ルートのラストに挿入された “チャーハン” のワンシーンでした。
虹色の紙飛行機に導かれたHairiは、かつて Umiと交わした小さな約束を無意識に思い出し、すでに出航した船を降りてまで、ほぼほぼ初対面のShirohaに「チャーハンの作り方を教えてほしい」と頼みます。存在を失った娘が父に残した記憶の種が芽吹き、そこから家族の未来が再統合される描写は、まさに本作最大の救いでした。また、Poketsルートの終盤、赤ん坊の頃のUmiが最後にHairiの腕の中にいるシーンを微かに思い出すシーン。重要なシーンでは役に立たなかった笑Hairiですが、それでもあの夏、Umiの父親をやれてはいたんだな、と何かプレイヤーとしても報われたような気持になる、そんなシーンでした。
そして改めて感じるのは、Key はやはり家族を描くのが抜群に上手いという事実です。血の繋がりだけではない、人と人が何かを受け継ぎ合う関係性を、ここまで繊細かつ温かく描けるブランドは他にそう多くありません。
私は依然として「能動的に運命を切り開く主人公」が好みです。だからこそ、本作のおススメ度は7点でしかありませんし、RBにも手が伸びませんでした。けれど、主人公が“舞台装置”であるからこそ、ヒロインや家族の感情が最大限に輝く──その演出哲学には深い敬意を抱きます。次に Key がどんな風を吹かせてくれるのか、やっぱり楽しみにしてしまう自分がいます。
閑話休題。
なんというか、良くも悪くもkeyって世界系の走りみたいなところがありますよね。このサマポケもそんな印象を強く持ちました。Kamomeルート終盤でHairiが過去の絵本の読者に向けて招待状をバンバン送り付けておきながら、招待状を受け取った人々が実際に島にやってくることを想定しておらず、島民にその対応を押し付けるシーンなんて流石にドン引きで、それまでの感動的なシナリオぶち壊しですよ。でも、そんなところも含めてKeyですし、そこが好きでもあるという笑
あと、どうでも良いですが2モード目のUmiちゃんの棒読み感はちょっと癖になります。
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