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30代からの投資でアーリーリタイアを目指す記録。日本に拘りはなし。

英語ゲーム多読の記録⑪【終のステラ】日本のノベルゲー

 

作品紹介

地球が、すでに人類の世界ではなくなってから久しい。
世界はシンギュラリティを起こした機械群に支配され、人々はその片隅で、息を潜めて生き長らえていた。

運び屋“ジュード”の元に、依頼が舞い込む。 それはシンギュラリティ機械群の影響を受けない、 少女型アンドロイド“フィリア” を輸送して欲しいというものだった。
世間知らずなフィリアの行動に嫌気がさしながらも、ジュードは旅を始める。 時には略奪を繰り返す人間から逃げ、時には機械群が闊歩する危険地帯を通り抜け、 輸送依頼を果たそうとする。

フィリアは何度も人間になりたいと口にする。
遥か空の先に辿り着けば、 アンドロイドは人間になれると言うのだが......?

 

 またもやSF。そしてアンドロイドモノ。この作品もまたkeyのキネティックノベル3部作の1つです。キネティックノベルは全て、心を持ったアンドロイドと人間との交流を描いた作品なんですね。

www.midorineko.work

 ↑これらに加えて、来月から待望のアニメ化がなされるATRIもまたアンドロイドモノということで、最近の私は似た系統の作品を読み続けていることになります。しかし、同じアンドロイドモノと言っても、作品によってその毛色は様々。本作で特筆すべきは、ライターが田中ロミオ氏だという点でしょう。息長く活動されている天才ライターです。一方で、相当癖の強いギャグを作中に入れ込んでくるという特徴もあり、ぶっちゃけ私はその点が全然合わないため、「あの滑り倒したギャグさえなければ100点満点の作品なのに…」という残念な想いを何度も味わされた作家さんでもあります。

 しかしながら、素晴らしいことに本作はその田中ロミオ氏の1つの特徴であるギャグがほとんど盛り込まれておらず、他方の長所であるストーリーテラーとしての天才性のみがクローズアップされた作品となっていました。一言で言って、最高です。

 ↑今作は、(ヒロインはアンドロイドとは言え)主人公とヒロインとの年齢差があるため、恋愛要素は皆無。どちらかと言えば、父親と娘のようでいてそうなり切れない2人の関係性に焦点を当てた作品となっています。だからこそ、娘を持つ父親にクリティカルヒットする作品に仕上がっているという。

 

 

必要英語力など

推奨英語力:TOEIC780~、英検2級~

 ゲームプレイ開始時点の私の英語力は、TOEIC905点でした(英検は1級の一次試験には通ったものの、二次試験で敗退。一次試験の語彙パートで22/25を取ったことや、語彙測定サイトでの結果などから、私の受動語彙は1万語と少し程度だと考えられます)。

 推奨英語力は"Planetarian"や"Doki Doki Literature Club!(DDLC)"と比較すると、少し低いです。世界観はともかく、キャラ同士の会話がほとんどなので、難しい単語や表現はそれほど登場しないからですね。特定の場面ではスラングが多用されますし、時たま英検1級超えの難単語が出るときもありますが、音声が日本語で選択肢も存在しないのでシナリオを見失うことはないでしょう。

 総合的に見て、TOEICで780点もあれば十分だと判断しました。ただ英検準2級だとさすがに単語レベルできつくなり物語に集中できなくなる恐れがあるので、せめて2級程度の語彙力はほしいかな~という感じです。

 

推定プレイ時間:20~30時間

 私の場合、プレイ時間は30時間程度でした。本作は過去イチで声優さんが素晴らしすぎるため一言一句セリフを聞き逃したくなかったことが、プレイ時間の増加に影響しています。HeroineであるPhiliaはもちろん、何よりもProtagonistであるJudeが良いんですよ! 普段がぶっきらぼうでクールな話し方だけに、感情を露わにして怒鳴るシーンや、子どもっぽさを前面に出してくるシーンがより際立ちますし、シナリオが進むにつれて徐々に変化していくPhiliaへの接し方の演技があまりにも上手く、全ての会話を存分に楽しみました。

 それと、もちろんいつものように知らない単語や表現が出てくるたびに辞書を引いてはAnkiにぶち込む、という作業を繰り返しながらプレイをしていました。なので、私より英語力が高い人は20時間もあればクリアできるのではないでしょうか? 短編であることは間違いありませんので、サクッとプレイしたい時におススメです。

 

よくない点

 どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。

 ・・・といっても、本作に限っては悪い点なんてないに等しいんですけどね、マジで。(これ毎回言ってるな私・・・この項目、無理に作らなくても良いのかもしれん)

日本語音声かつ主人公音声なし

 これは他のキネティックノベルと同じです。英語学習用としてとらえた場合、やはり音声が日本語なのは一長一短があります。実際には文法力が足りずに読めていないのに、耳から日本語訳が入ってきてしまうことによって、あたかも実力で会話文が読めちゃってるような気がしてしまうんですよね。残念、それは錯覚です。日本語音声に惑わされず、知らなかった表現はAnkiにぶち込むなりノートに書きとるなりして、地道に暗記しましょうね。

 

エンディング曲が、(個人的に)微妙・・・

 ネタバレになるので詳しく書けませんが、本作のエンディング曲は、作中で頻繁に登場するBGMに歌詞をつけたものです。なんですが・・・。なんというか・・・。一聴した時に、

 

「無理やり歌詞を嵌めこんだ感」を凄く感じたと共に、

「え、そんなにテンション高く歌い上げるの? そんなに1語1語はっきり発音しなくても良くない? もっと優しく歌わないの? その歌詞なのに?」

 

って感想を抱いてしまったんですよね💦

 いや、これはもう完全に個人的な嗜好の問題でしかないので、全然異論があって当たり前だと思いますし、他に悪い点があまりにも見当たらなすぎたがためのこじつけになってしまっているかもしれませんが、ラストもラストの一番こちらの涙腺が崩壊しているシーンで不意打ちビンタされたような感覚になってしまって、心をどう持っていけば良いかわからなかったのは事実です。

 断っておきますが、歌詞は素晴らしいんです。歌詞は。

 ・・・と、こんな枝葉をダラダラ書いても仕方がないので、この辺で切ります。

 

おすすめな点

 はい、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。

Philiaがとても可愛く、不思議

 Philiaは、アンドロイドでありながらとても人間らしいです。それは柔らかい声質の声優さんの演技のすばらしさももちろんありますし、可愛らしい言動も一役買っています。

 ↑例えば出会いのシーン。主人公が彼女につけた「ロイド」という名前を「可愛くない」と棄却するPhilia。「好みがインプットされていたならそう言え、面倒な機械だな」とのjude。その後、「女子の名前一覧」をデバイスで調べて「この中から選べ」というJudeに対し、彼女は「そういうのが一番精神的に来るから、嫌」とはねつけます。なんと人間らしいw 結局は押し問答の末、彼女の名前はPhiliaに決まるのでした。

 ↑Philiaはアンドロイドでありながら、コンピュータの使い方を一切知りません。ハッキングするどころか、同い年の少女と同じ程度の知識しかなく、製作者が彼女を「限りなく人間に近く」制作したことがうかがえます。しかし、いったいなぜそんなアンドロイドとしての長所を捨て去るような真似を・・・?

 さらに彼女は人間と同じくらいの体温も持っていますし、歩くと足に炎症が起きますし、喉も乾きます。序盤から、これでもかと人間らしさを見せつけられて、プレイヤーは彼女のどこがアンドロイドなのかという疑問にとらわれます。

 

 ↑「人間になれる場所」に行かなければならないと言うステラ。意味深な発言ですね。
 彼女は言います。「私が人間になればすべてが救われる」と。しかし、そのための方法を彼女は一切知りません。なぜ彼女の製作者は、そんな意味不明なプログラムを施したのか、が最初の疑問として持ち上がります。彼女が人間になればこの荒廃した世界が救われるのだとすれば、せめてそのために何をすれば良いのかくらいはインプットしておけば良いのに。

 

 ところで、ゲームの舞台になっているこの世界はまさに弱肉強食です。街はあるし人も往来していますが、中には人を奴隷にする蛮族のような連中もいれば、「危険地帯」と呼ばれる地域も存在して、一撃で人間を殺せるだけの力を持った「singularity machine」という巨大な自立機械が現れることもあります。そんな世界において、Philiaは一切の殺生を好みません。銃を持つことすら拒み、人を傷つけることができないために、幾度となく2人はピンチに陥ります。

 この点は賛否両論かもしれません。少なくとも、ProtagonistであるJudeにとって、絶対に殺生を好まないし、Judeにもそうしてほしくないと言うPhiliaはお荷物以外の何物でもないでしょう。その点において、彼女をウザく感じるプレイヤーも少なくないかと思います。

 しかしそんな彼女も、物語が進むとともに成長していくのです。

 

 ↑これは物語中盤の1シーン。自然と生身で接するのが怖いと吐露する主人公に、それは考えすぎだと諭すphilia。なんだか親と子、あるいは人間とアンドロイドとの立場が逆転しているかのようでクスリと来ます。

 

物語自体の引っ張る力が強い

 ↑Judeの記憶に時折現れる女性。殺生を好まない点など、性格面においてPhiliaに似ていますが、どういう関係性なのかは終盤まで不明です。

 

 ↑Philiaはバッテリー容量が少なくなると動きが鈍り、フラフラします。これは人間でいうところの「空腹」を再現しており、人間社会に溶け込むためにそういう設計にしたものと推測されます。しかし、まさか溶け込むこと自体が目的なはずもなく、それは手段に過ぎません。しかし、ならばいったいその目的とは? Philia自身にもその目的がわかりません。

 ↑こういう旧時代のロボットが至る所で眠っていたり稼働していたりし、主人公たちはたびたび命の危険に晒されます。いつ死ぬかわからない、この緊迫感がシナリオのスパイスとして効いています。

 

これでもかと出てくる口語表現

 そしてこれは英語学習の観点から見た場合の良い点ですが、やはり本作にも多数の口語表現が登場しました。

 ↑最下行。"I'm still on the fence."日本語訳は「決めかねている」。フェンスの上にいて、どちら側に落ちるかまだわからない状況からできた表現です。これはdistinctionに掲載されていましたね。

 ↑"Beats me." 日本語訳は「さあな」。目上の人の前で使うと大変なことになりますよ。

 

 ↑A whole hour right down the drain. 丸々1時間をドブに捨てたようなものだ。という意味ですね。

 もともとが田中ロミオ氏の文章だけあって、結構含みを持たせた言い回しが多いんですよね。それをどのように英訳するのかが翻訳者さんの腕の見せ所、といった感じの本作。自然と、英語版でもオシャレな言い回しが多かったような気がします。

 

おすすめ度

 おススメ度は、10段階で10です。

 娘を持つ父親も、そうでない人も、プレイしない選択肢はありません。即買ってプレイしましょう。後悔することはないでしょう。

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ネタバレ感想

 ※ここから先は、思いっきりネタバレしています。未プレイの方はご注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数々の出会いと別れ。それに伴う2人の成長

 シナリオ内において、JudeもPhiliaも、数々の出会いと別れを体験します。それは弱肉強食の世界で生まれ育った人間の少女だったり、施設を守るよう命を受けているがために、非常時でも持ち場を離れるのことのできないアンドロイドだったり、可哀そうにも蛮族に捕らえられた、父親の幻影を追うアンドロイドだったり。

 全ては一度一会なのですが、彼らとの出会いはどれも、Philiaにとって掛け替えのない経験で、彼女をより人間らしく成長させます。

 ↑シンギュラリティ・マシーンに攻撃される施設に残ったガブリエルを案じるPhilia。自我がないように思えたガブリエルが、短い触れ合いの中で少し変化したのもまた、読者の心を動かす要素になっていましたね。

 

 ↑物語終盤、Delilahの最期には心を締め付けられます。別れの予感が確実に迫っていること自体もそうですが、それをまだ理解できないPhiliaと、Delilahの"father"がDelilahのことを本当に娘だと思っていたに違いないと正面から彼女に伝えるJudeの優しさとが相まって、奇跡的なワンシーンとなっています。

(この時点では、ね! このあたり、さすが田中ロミオ氏のシナリオだと思い知らされます。そんな単純な良い話を書くわけがないんですよ、)

 

 ↑そして、ついに辿り着いた旅の最終目的地点での、Philiaからのこの問い。あんなに天真爛漫だった彼女が、今見ている海は(かつてその浅瀬ではしゃいでいたモノとは違って)怖いなどと、極めて人間らしい心境と五感とのリンクに気付いた直後のことでもあり、Jude自身がもはや彼女を娘のように感じていることを自覚し始めている場面でもあり、プレイヤーの心を揺さぶりにかかります。この後に起きる展開も予想できてしまうだけに。

 

Philiaの正体

 物語の中では割とさらっと流されてしまうのですが、Philiaの正体がAIによって作られたアンドロイドだと判明した時の衝撃は、かなりのものです。

 Philiaはずっと、「人間よりも人間らしい」存在として作中で描かれてきました。実はこれが大きな伏線だったんですね。AIが人類を支援しなくなった理由が、「遺伝的に我々人類が定義から逸脱してしまったため」というのは秀逸。(SF的にはもしかしたらよくある設定なのかもしれませんが、私は完全にミステリ畑の人間なのでSFには疎いんです・・・)

 人間はもはや人間ではなく、AIが作り出したアンドロイドこそが真の人間であるというのは、ロミオ氏らしい皮肉。人間らしさをAIに定義したのは人間自身だったはずですから、その定義から逸脱してしまった人類は、まあ、なんというか遺伝的にも「衰退した」のでしょう。

 ↑この慈愛に満ちた表情。彼女が人間じゃなくて、いったい誰が人間であるというのか。

 

 ↑恋人同士に見えるかもしれませんが(それほどにPhiliaが成長したとも言える)、実際は父と娘。来るとわかってはいても、こんな美麗なCGと音楽で見せられてしまうともう涙腺崩壊を食い止める術はありませんでした。

 

 Judeについても少し触れておくと、彼もまたこの旅の中で大きく成長しましたよね。最初は無理して大人ぶっているというか、運び屋として相手からなめられないためにそうしていたことが終盤で明らかになるように、物語開始当初、彼は(仕事人として自分を律することに関してははエキスパートだとしても)、近しいものとの交流について言えば「大きな子供」でした。あれだけフラッシュバックがあったことから推察すれば、少なくとも妻に対して特別な感情を抱いていたことは間違いないのですが、それにしても、故郷が滅び、妻と子と第三の男とが同じ墓に入っていたことをまるで他人事のように淡々と語る姿には、子どもゆえの無関心を感じざるを得ませんでした。故郷に帰った動機も、2人を案じるというよりもむしろ「自分を追放した村のやつらを見返してやろう」の方が強かったですし。そんな彼が、一度はPhiliaから父親と呼ばれて(自分にそんな資格はないと)激高した彼が、最後には自らPhiliaの父になりたいと思うに至ったこの心の変遷は、単なる心変わりで片づけられるものではなく、まさしく成長だったに違いありません。

 『そして父になる』ではないですが、私自身も自分に子供ができた時、しばらくはどうやって父親として振舞えば良いのかわからず、右往左往していました。あまりにも言うことを聞かず自分勝手な行動を取る小さい生き物にイライラし、声を荒げてしまったこともあります。今でもそれは、全くないわけではありません。夫婦共働きで子育てをしていると、全くと言うほど自分の時間が取れませんからね…。育児ノイローゼになる人が後を絶たないのも身に染みてわかりますよ。

 しかしながら、自分が親であり我が子が持っている無限の可能性に思いをはせた時に、外でもない彼・彼女のための、親としての無償の愛の存在が、本当に少しずつですが理解できてきたのもまた事実です。意識的にであれ無意識的にであれ、親もまた成長していかなければ、人類という種が未来永劫繁栄していくことはないのでしょう。それは遺伝子レベルの話でもあります。

 

 ・・・と、話が反れましたね💦

 最後に、エンディングです。ここからまだたくましく成長していくPhilia。冒険の続きを示唆するラストは、続編を期待させてしまいます。Judeはもういなくとも、(某フリーレンのヒンメルのように)、これからも彼女の心の大きな部分を占めつづけていくでしょうから、そっちの方面で描いてくれても良いのよ・・・?ロミオさん。

 

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まとめ

 これまでのキネティックノベルと比較すると、やや大人向けの印象です。主人公とヒロインとの関係性が、公式に「父と娘」になっていますからね。

 そのため、10代~20代の若い人よりも、30代以上で特に子供を持つ親世代には凄まじい切れ味でクリティカルヒットする作品だと言えます。当たり前のことなのですが、子供は成長します。そして親だって成長しなければならないという、ごく当たり前ながらも日々の生活で忙殺されて忘れてしまいがちな事実に、本作は気づかせてくれるでしょう。

 たった20~30時間で大切なことを学べるのであれば、プレイしない選択肢はないのではないでしょうか。

 

 

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