作品紹介
幼なじみの少女・銀花は、夏祭りの夜、
“神隠し”にあって消えてしまった。あれから5年。
高校生になった青羽流星は、フェリーに揺られ、ふらりとひめ島へ帰ってきた。
確かめたかった。銀花はあれから、どうなってしまったのか?
もしかしたら、何事もなかったように家へ帰っていて、島の高校に通いながら普通に暮らしているんじゃないか……。そんな淡い期待は裏切られる。
あの夜からずっと、銀花は行方知れずのまま。失意に沈み、再び島を離れようとする流星だったが、そこで不思議な再会をする。
目の前に現れたのは、あの頃の姿のままの少女――ギンカ。「おかえりなさい」
自分の名前さえ忘れてしまったギンカ。
覚えているのは“リュウセイ”の名前と、彼を好きだという恋心だけ。今までどこにいたのか?
なぜ、幼い姿のままなのか?おだやかに時間の流れる小さな島で、
“神隠し”から帰ってきた幼なじみの少女と過ごす、
おとぎ話のような夏休み。
明日発売される本作『GINKA』。3,000円台という低価格かつプレイ時間も10~15時間程度というショートノベルながら、2023年ベストノベルに躍り出る可能性十分だと、発売前から界隈の期待がとにかく高いのは、エックスでのインプレッション数からも明らかです。このノベルゲー低迷期において、この盛り上がりは異様なほど。
「英語ノベルゲー多読」を提唱する私でも、発売前に記事を書くことなんてあまりないのですが、前作のがあまりにも素晴らしすぎたために、ここ一週間『GINKA』のことで頭がいっぱいで、もはや期待記事を書かずにはいられない精神状態になってしまったのですw というわけで、推敲も何もない雑多な文章ですが、ついに待望の『GINKA』発売を明日に迎えた今の自分の心情を、ここに書き留めておきたいと思います。プレイ後にこの記事を自分で振り返った時に果たしてどう感じるのか、今から楽しみです。
期待している点
はっきり言って、すでに傑作になることが半ば確定しているゲームです。なんなら2023年に発売される泣きゲーの中で一番クオリティが高い可能性すらあります。価格は前作よりはわずかに高めですが、それでもフルプライスと比べれば半値くらいの設定ですし、前作の出来を考慮すれば価格以上の価値があるのは間違いないでしょう。
制作陣の強さ
まず何といっても、本作はあの紺野アスタさんとゆさのさんの最強タッグによって作成されています。この2人は、2020年に発売された、あの伝説的な泣きゲー、『ATRI -My Dear Moments-』 のシナリオライターとイラストレーターさんです。
↑私の、ATRIに関する魂の記事はこちら(後半ネタバレ注意)。
さらに作曲家も前作と同じ松本文紀さんで、美麗で心を打つ音楽が期待できます。もちろん制作はFrontwingなので、システム面もばっちり。発売前の段階でここまで安心できるのは、彼らがこれまで積み上げてきた信頼の証ですね!
シナリオ
本作の内容は現時点でほとんど明かされていないため、これまでに提示されたCGや、スタッフインタビュー、カウントダウン動画などから推測するしかありません。
この出で立ちからもわかるように、GINKAは神社の巫女的な立場です。島民からは「姫様」とも呼ばれていますね。「ひめじま」という名前の島において、「ひめさま」が特別な存在じゃないわけがありません。5年前、儀式の最中で神隠しにあってしまったというGINKA。そして、なぜか主人公である流星が戻ってきたタイミングで再び当時のままの姿で、現れたGINKA。いくらなんでも偶然なわけがないですよね。
また、こちらのCGでは、GINKAが主人公を襲い来る何かから守護しているように見えます。悪霊か何かでしょうか? 幼かったGINKAを神隠しに合わせた元凶がこの悪霊で、そいつが今度は主人公を攫いにきたのでしょうか?
現段階では想像するしかありませんが、今回もきっと、前作であるATRIと同様、GINKAとの楽しい日常を過ごす前半パートと、奔流のように読者の感情を揺さぶる後半パートとのギャップの大きい作品になるのでしょう。
また、主人公の名前が「流星」、ヒロインの名前が「銀花」であることにも、きっと意味があるのだと思います。
#GINKA
— green cat (@kurukurukurage3) October 15, 2023
あと主人公の名前が「流星」、ヒロインの名前が「GINKA」であることにも多分意味がある。主題歌の歌詞も合わせて考えると、話は宇宙まで広がるのでは?
前作 #ATRI でもメインキャラの名前にはちゃんと意味があったし。
夏生→(Atriと出会い)夏に生まれ変わる
ATRI→花鶏。鳥言葉:独立心
↑このように、前作であるATRIの時も、メインキャラクターの名前には意味がありました。呟きには含めませんでしたが、サブキャラの「水菜萌」もまた、「水面のように穏やか」というイメージから名付けられたんじゃないかな?と想像しています。
既に公開されているオープニングテーマの歌詞も意味深ですよね。世界が2つあることを暗示しているような。
GINKAの正体は?
当然ながら、神隠しにあったGINKAが5年ぶりに現れるというストーリーに、ミステリ的な要素はないように思います。例えば金田一少年の事件簿に登場する『巌窟王』のように、何年間も日光の当たらない場所で暮らしていたがために身体が正常に育たなかったという人物が登場する作品もないわけではありません。しかし、GINKAの場合この線は薄いでしょう。身体のサイズだけではなく身に着けているものまですべて当時のままだからです。
「おとぎ話のような夏休み」という公式のあらすじ紹介から考えても、本作はミステリよりもファンタジーとか、あるいはSF寄りの物語になると解釈した方が良さそうです。
たぶん、GINKAが戻ってきたのが「ちょうど主人公がこの島に戻ってきたタイミング」だという設定がキーになるんじゃないかな、と。
ここからは妄想ですが、GINKAは5年前の夜、悪霊か何かの手によってすでに死んでいるんじゃないでしょうか。しかしGINKAには主人公を好きだったが思いを伝えられなかったという未練があるため幽霊として島で生活していたのでは? 主人公が島を出ていた数年間は姿を見せなかったものの、何らかのきっかけで主人公が島に戻ってきたことを知り、想いを告白するために実体化したのではないでしょうか?
まあ、いくらなんでもそんなに安易なわけはないでしょうが、
↑こちらの先行プレイレビューによると、どうも現れたGINKAは主人公にしか見ることができないらしいんですよね。
↑また、このどう見てもGINKAの成長した姿である少女も気になります。これ、神隠しに遭わなかったif世界のGINKAなんじゃないですかね?
テーマは死生観?
ところで、GINKAの髪には、青い蝶々の形をした飾りがついてます。
青い蝶々というのは青い鳥と同じく、世界的に幸せの象徴であると考えられています。一方、公開済みのティザーPVやCGなどでは、白色に輝く蝶々が複数匹、GINKAの周りを飛び回っているシーンが描かれています。
↑冒頭に貼ったこのCGでも見えますね。
色に関わらず、蝶々は世界中のあらゆる国で生と死の狭間を飛ぶ生き物だったり、復活のシンボルだったりとして扱われています。
だとすれば、本作のテーマはおそらく死生観じゃないかと。5年前の姿のGINKAが幽霊なんだとしても、あるいは別の世界線のGINKAなのだとしても、主人公が彼女を救うための物語になるんじゃないでしょうか。そしてGINKAの成長した姿である謎の少女に、GINKAの記憶が同化するようなエンディングがハッピーエンドとして用意されているのかなあ?などと妄想しておきます。
不安点
はっきり言って、本作への不安はほとんどゼロに近いです。
GINKAはすでに素晴らしい実績を持つスタッフや会社による作品であるため、発売前から傑作になるのが約束されているようなものですから。
それでもあえて心配事をあげるとするならば、それは「前作があまりにも大傑作だったこと」です。ATRIが、あの低価格にもかかわらず信じられないほど完璧な泣きゲーだったため、ファンによる本作への期待は極めて高いんですよ。さらに、価格面においても本作は前作よりもわずかに高いです。「ちょっと良いゲーム」くらいの結果では、多くのファンが納得しないと思います。
果たして本作は、前作を超えられるでしょうか? 本作ヒロインであるGINKAは、あの最高のヒロインだった、Atriよりもかがやく魅力を備えているでしょうか? 瞳の色は違えど、銀色の長髪というGINKAの特徴は、Atriのそれと酷似しています。
↑こっちがGNKAで、
↑こっちがAtri。マジで似てますよね。
さらにゲームの舞台もよく似ています。いずれも真夏の海に面した町が舞台です。
「あえて前作と似せることで、前作のファンにアピールしたい」という狙いであえてこうしたとのことですが、これはなかなかチャレンジングです。
とはいえ、自らの過去の最高傑作が自らの最大のライバルとして立ちはだかってくる展開は、強者ならではの物語。GINKAがAtri以上に、世界中のファンを虜にしてくれることを、私は切に願っています。
「英語ノベルゲー多読」という視点で見た時の期待
さて、ここからは私の提唱する「英語ノベルゲー多読」の視点から、本作に期待することを書いておきます。
日英併記システムがある(はず)
前作をプレイしたときに衝撃を受けたのが、この日英併記システム(システムの正式名称は知りません。勝手に名付けました。ちなみに中国語も可)。通常、日本発のノベルゲームは、英訳されているものであったとしても、選択できるのは日本語か英語のいずれ一方のみです。
しかし、前作は違いました。なんと両方の字幕を同時に表示することができるのです。
↑こんな感じ。
これにより、単なる英文多読としての効果に加えて、「この日本語を英語に翻訳するとしたら、どう書くのが自然なのか」という視点で物語を読むことが可能になります。そしてこれは、翻訳業を目指す人間にとって、極めて効果の高い仕組みなのです。
両者を見比べてみればわかると思いますが、翻訳は中学高校で習うような、いわゆる「和文英訳」とは異なります。例えば受験英語の和文英訳では、出題された日本語が一文であれば、それに対応する英語も一文で訳出しなければなりません。一方、日英翻訳にはそのようなルールはありません。文章を途中で切った方がより作品内容を適切に伝えられるのであれば、元は一文の日本語を二文の英語に分けて訳出する場合もありますし、その逆もあります。さらに、翻訳にはもっと踏み込んだ訳も登場します。
例えば前作では、作中に「桃太郎」が登場するシーンがあったのですが、これが英語版では”snow white”に置き換えられていました。我々日本人にとってなじみの深いも音太郎も、海外での知名度は低いためそのまま訳出することはできず、そこの文脈ならばむしろ世界的に知名度の高い「白雪姫」と訳すことで、文脈上も矛盾しない上にすんなりと理解してもらえる、という翻訳者の配慮ですね。(小説ならば、「桃太郎」のまま訳して注釈を付けるという方法もあったと思いますが、文字数の限られるノベルゲー翻訳ではその選択肢は選べなかったのでしょう)
私自身、副業として翻訳や通訳をすることがよくありますので、Atriを通じて学ぶことがめちゃくちゃ沢山ありました。翻訳は一文一文を一対一で訳出する作業なのではなく、作品全体を貫く一本の柱に矛盾することなく、シナリオや各キャラクター、世界観の魅力を輝かせる作業なのです。
・・・ここまで書いて、GINKAでは日英併記システムが削られてるとか、辞めてくださいね!w
土着信仰についての描写
本作は、日本っぽい土着信仰がシナリオのキーになりそうな雰囲気です。海上の鳥居という「らしい」モチーフも登場するし、他でもない巫女であるGINKAが神隠しに遭い、まるで幽霊のように当時の姿のままで現れるし、「カタシロ流し」という儀式もあるとのこと。
↑広島のあの鳥居を思い出しますね。
それにカウントダウンPVによれば、まるで「此岸」と「彼岸」のような2つの世界があることが示唆されており、生と死をつなぐ物語なのは明らかです。上述のとおり、そのメタファーとしての蝶々もそこら中に飛び回っていますしね。
こういう、まさに「日本古来!」みたいなテーマを、世界観を破壊せずに、いかに英語圏の人々に伝えることができるのか。新聞やニュースの英語多読だけではなかなか得られない、英単語や表現技法を、本作からはふんだんに学ぶことができそうです。
GINKAの魅力は輝くか!?
本作は、前作と同様、ヒロインの名前そのものがタイトルになっています。インタビューの中で紺野アスタ氏自身も語っていますが、これってリスキーなんですよね。少なくとも制作側のプレッシャーは半端ないはず。だって他のどのキャラでもなく、GINKAの魅力が際立っていなければ、GINKAのGINKAによるGINKAのための物語でなければ、「名前負け」してしまうんですよ。しかも、この場合、ヒロインは尖った魅力を備えながらも、ある程度は万人受けを狙わなければ、結局一部の熱狂的信者だけを取り込む閉鎖的な作品で終わってしまうという。そのバランス感覚の難しさたるや、想像を絶することでしょう。
実際、この界隈にはヒロインの名前をタイトルに持ってきた作品は無数にありますが、大成功とまで言えるものはそれほど多くないのではないでしょうか。英語化された作品で言えば、Saltheは良かったですけど、あまりにも尖りすぎて決して万人受けする作品ではありませんし。
↑尖ってはいますけど、めっちゃ傑作ですよ!
前置きが長くなりましたが、ここで言いたいのは、キャラの魅力とは、そのキャラの発言や仕草ひとつひとつの積み上げで構成されているということです。紺野氏やゆさの氏はもちろんのこと、タイトルをGINKAにする決断をしたからには、スタッフはGINKAの魅力を輝かせるために全力を結集したはずです。それこそ、細部に至るまで「かわいいは作れる」と信じ、計算し尽くしたはずです。その、全スタッフによって磨かれた彼女の魅力が、和英翻訳する過程でさらに輝きを増すのか、それとも、あえなくくすんでしまうのか、あるいは日本版とは異なる魅力を創出するのか(音声が日本語ですので、この線は薄いか)。
日本語版と英語版とを比較して、いったいどっちのGINKAの方が可愛いのか。これぞまさに、ノベルゲー多読の醍醐味ですね!
まとめ
なんか発売すらされていないのに意外な長文になってしまったんですが、要するに、「死ぬほど期待しています」ってことです。ほんとに、それだけ!
物語としても、キャラゲーとしても、英語多読用としても、です。
明日が楽しみすぎて眠れる気がしません・・・。
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