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30代からの投資でアーリーリタイアを目指す記録。日本に拘りはなし。

英語ゲーム多読の記録⑩【GINKA】日本のノベルゲー

作品紹介

 作品の概要については、こちら↓の記事をご覧ください。

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 あまりにも自分の中での期待値が高すぎたため、我慢できなくなって発売前日にわざわざ5,000文字もの記事を書いてしまった作品です(我ながらアホです)。

 それもそのはず、神作だった『Atri -My dear moment-』と同じ主要メンバーによる新作なんですから! 本作も前作同様に主人公とヒロインとが日常を歩みながら、しかしどこかおとぎ話のような世界の不思議に迫っていくような内容となっています。いわゆるロボットもののSFだった前作とは異なり、本作は伝奇モノで雰囲気は大きく異なりますが、物語を貫く大きな柱は今回もやはり主人公とヒロインとの心模様でした。

 設定やシナリオが複雑ですので、明確に「これがテーマだ!」と断言はできませんが、運命に翻弄されながらもお互いを大切にし合う、主人公とヒロインとの一途な想いを一貫して描いた作品です。

 

必要英語力など

推奨英語力:TOEIC550~、英検準2級~

 ゲームプレイ開始時点の私の英語力は、TOEIC905点でした(英検は受験歴なしですが、複数の語彙診断サイトで9,500語前後の評価のため、準1級~1級の間程度でしょう)。

 推奨英語力は"Atri -my dear moments-"と同程度。難易度の上がりがちな伝奇モノではありますが主要キャラは高校生ですので、言い回しは平易です。会話文が多いですし音声は日本語ですから話を見失うことはないでしょう。さらに、本作は前作と同様、2種類の字幕を並列できるという素晴らしい機能があるため、最悪英語力がほぼ0であったしても、多読っぽく英語を眺めながら読み進めることが可能です。

 ただ、普通に英検1級レベルの単語もスラングもガンガン登場しますので、もし日本語字幕をつけないのであれば、それなりの英語力がないと結構キツイと思われます。

 

推定プレイ時間:30~40時間

 私の場合、プレイ時間は37時間程度でした。おそらく全てのエンディングを網羅してはいませんので、そこまで回収するなら40時間は超えるはずです。わりと選択肢の多いゲームですしね。

 まあ日本語版をプレイした人は、一日や二日でクリアしているようですので、英語多読用として使用しないのであればプレイ時間は半分以下まで激減するでしょう。前作よりも少しだけ長い程度かと。

 

よくない点

 どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。

 

日本語音声かつ主人公音声なし

 これはもう、ただただ海外展開している日本のノベルゲーの宿命です。英語学習用としてとらえた場合、やはり音声が日本語なのは一長一短があるということですね。実際には文法力が足りずに読めていないのに、耳から日本語訳が入ってきてしまうことによって、あたかも実力で会話文が読めちゃってるような気がしてしまうんですよね。残念、それは錯覚です。日本語音声に惑わされず、知らなかった表現はAnkiにぶち込むなりノートに書きとるなりして、地道に暗記しましょうね。

 

ギンカと銀花との書き分け(英語版)

 ネタバレになるため深くは書きませんが、この物語には「ギンカ」と「銀花」とが登場します。この書き分けは極めて重要な意味を持つのですが、なんと英語版ではいずれも"Ginka"表記になってしまっています。これは、いくらなんでもあり得ないです。

 申し訳ないですが、原文分析の段階での翻訳「ミス」と言っても過言じゃないです。ちゃんと日本版のシナリオ読んでるのかな?と疑いたくなりますし、ちゃんと読んだ上で表記をGinkaに統一する判断をしたのであれば、その理由が理解不能です(クレジットを見ると翻訳者複数名に加えて、専用の編集者もいるので、まあ後者なんでしょうけども…)。

 ↑物語序盤のラジオ体操(ラジオ護身術)シーン。下から2段落目に「ギンカ」が、一番下の段落に「銀花」が登場します。ここでは、「ギンカ」は目の前にいる少女のことを、「銀花」は5年前当時の少女のことを指します。

 

 確かにですね、シナリオを読み進めていくと、重要な場面では両者がきっちり区別されて訳されているのがわかるのですが、なぜかしばしばそうではない時が混在しているのが問題なんですよ。

 例えば前者を「GINKA」と全て大文字表記で固定するなどすれば、わざわざ場面場面で訳し分けたり訳し分けなかったりする必要なんてなかったのに、なぜこんな面倒な方法を選んでしまったのか…。実際、ネイティブアメリカンとフィリピン人である私の友人2人に聞くと、やはり何度か混乱して読み違える場面があったそうです。「でしょうね」というのが率直な感想です。

 Atriくらいわかりやすいシナリオなら良いですよ? でも、ただでさえシナリオが難解な本作ですから、こんなところで余計な負荷をかけてしまうのは、制作側としても本意ではなかったのでは・・・?

 本作は最初から海外展開することが前提でテキストもそのために丁寧に書かれていたことがわかるだけに、翻訳の面においてこの点だけは本当に残念です。

 

 ↑こことか、凄く丁寧ですよね。日本人なら誰もがルールを知っているスイカ割りについても、海外の人が理解できるように、テキストには詳細なルール説明が盛り込まれています。この点はラジオ体操などについても同様。

 ここまでユーザーに寄り添って作ってるのに、なぜ肝心な部分に限ってあんな訳し方をしてしまったんですかね…。

 

主人公力に欠ける主人公

 これも、ネタバレになるため具体的なことについては伏せます。

 ただ1つ言えるのは、前作の主人公であり自らの力でもって未来を切り開いていったNatsukiと比較した時に、本作の主人公であるRyuseiはなすすべなく運命に流されてしまう傾向にあったと言えます。というか、切り開く意志はあったのですが自分一人では力不足で、他のキャラに助けられてばかりだった印象です。

 そしてそこがプレイヤーの感情移入を妨げてしまうというか…魅力的に描かれるGinka、丁寧に描写される2人の気持ちの通じ合い、徐々に明かされていく謎と力強く展開していくシナリオなど、良い材料がたくさん揃っていたのに、彼の主人公力の欠如が原因となって、気持ちの良いカタルシスに繋がっていかなかったように感じました。物語は良いのですが、どこか自分事として読めなかった感じです。サブキャラに活躍の場を与えたことによる弊害かもしれません。

 

おすすめな点

 とまあ、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。

Ginkaが可愛い

 本作は、ヒロインであるGinkaの可愛さが前面に押し出されています。物語前半のシナリオは、全てを忘れてしまったGinkaにと共に、夏休みの思い出を作ろう、というもの。

 ↑夜通し作戦会議をし、この夏にしたいことを2人でノートに埋めていく2人。この際、過去を覚えていないGinkaや、生きる意味を見失っていた当時のRyuseiなど、後にシナリオに関わってくるんだろうなあ、という描写もなされますが、それはそれ。

 

 さて、Ginkaがもし5年前に死んでいるのだとすれば、今目の前にいるGinkaは、本来存在してはいけないモノになります。 

 ↑最初は”maniacs”(通り魔)扱いされていた謎の少女。彼女は言います。

"Something evil is possessing you"と。この「悪いモノ」とは、果たしてGinkaのことなのでしょうか? もしそうなら、イザナギとイザナミの神話のように、この物語は悲劇的な結末を迎えてしまうのかもしれません。

 このように、本作はかなり序盤から、楽しい日常シーンにシリアスな雰囲気が鬱々と覆いかぶさったような雰囲気で話が進みます。その中にあって、Ginkaの魅力はひと際輝いていますね!

 

英語&日本語字幕が同時に表示され、翻訳の勉強になる

 前作と同様、本作には変わった機能があり、メインの字幕とサブの字幕との言語をそれぞれ設定できます。そのためメインを英語、サブを日本語に設定すれば、物語を読み進める際にかなり大きな補助になります。

 英語多読にとってこれが良いことかどうかは考える余地がありますが、しかし、副業で翻訳をしている私のような人間にとってはめちゃくちゃ有用なんですよ。日本語特有の表現を英語でどのように訳せばよいか。それとなく似せるのか、思い切って全然違う表現にしちゃうのかなどを判断する材料になります。

 ↑わかりますか? この配慮。

 翻訳する際、わざわざ"Japanese staple"というフレーズを追記しているんですよ。我々日本人にとっては当たり前のカレーですが、海外の人にとってはそうとは限りません。だからこその「日本人の定番」というフレーズの挿入。これがあることで、「なるほど、日本ではcurryという食べ物は、子どもでも当たり前に食べているものなんだな!」と海外の人でもすんなり理解できるわけですね。他にも、夏休みの宿題にあさがおの観察日記が出るシーンなんかでもそういう配慮がなされています。

 ↑「いただきます」は、英訳するのが最も難しいフレーズの1つなのよね。ここではわかりやすく直訳されてますね。

 ↑日本語だと「蜘蛛の子を散らすように」だけど、英語だとroach:ゴキブリなのかw

 ↑「ナンマンダブナンマンダブ」では、godとBuddhasとがそろい踏みしてますね! なんだか『聖☆おにいさん』を思い出しましたw

 ↑ギャル化したGINKA。こんな風に英訳すれば良いの・・・か?? 正しいのかどうかはわかりませんが、たぶん"like"を多用するんだろうなあ、ということはわかります。

 この辺り、他にも色々書きたいことはあります。日本語のテキストには、「ふーん、エッチじゃん」とか「ワシが育てた」とか、日本人ならニヤっとしてしまうネタがいっぱい盛り込まれていて、それを英語でどう訳すのかを読むの面白いんですよね。だけどキリがないのでこの辺で止めておきます。翻訳の勉強したい方は、ぜひご自身でプレイしてみてください。マジで勉強になることだらけなので!

 

口語表現に加え、「夏」「海」「学校」「祭り」関連の語彙が増える

 本作はいわゆるギャルゲーとして話が展開されるため、キャラクターの掛け合いがかなり多いです。

 また世界観的に、夏や海、学校、祭りなどに関する語彙が頻出します。

 

夏や水や海に関する単語

breakwater:防波堤、 tackle shop:釣具店 dehydration:脱水症状

It's scorching.:めちゃくちゃ暑い。 barley tea:麦茶

oscillating mode:(扇風機の)首振りモード bathing suit:水着

seaweed:海藻 inner tube:浮き輪 dinghy:ゴムボート

heatstroke:熱中症 moring glories:あさがお seedlings:苗

観察日記:observation journal

 

学校や夏休みに関する単語など

The door reads "5th Grade".:ドアに「5年生」と書いている。

homeroom teacher:担任、 curfew:門限 sleepover:お泊り会

radio calisthenics:ラジオ体操 watermelon splitting:スイカ割

cooking activities:調理実習 semester:学期 guarian:保護者

rerun:再放送 kiddy show:子ども向け番組 buds:つぼみ

game console:ゲーム機 piggybank:貯金箱

cheap candy:駄菓子

 

祭りに関する単語など

stall:夜店、 candied apple:りんご飴、 fire baskets / bonfire:かがり火

The festival will be a blast.:祭りは盛り上がるだろう。

palanquin:神輿 grant wish:願い事を叶える

 the mortal realm:人間界 priestess:巫女 shaved ice:かき氷

nibble on the ice pop:アイスをかじる altar:祭壇 tarp:天幕

 

おとぎ話に関する単語など

be spirited away:神隠しに遭う

 

その他、信仰に関する単語など

sun worship:太陽信仰 the spiritual world:神域 mortal realms:現世(うつしよ)

interstice between two worlds:2つの世界の狭間

unclean:穢れている お供え物:offerings

chant a short prayer:祝詞をとなえる purification rite:お清め

 

 こんな感じで、単なる学園モノに留まらない語彙が登場するため、英語多読用として得られるものは結構多いです。「翻訳」という意味で面白かった表現としては、Himawariの「ごんたや~」を"Gonta-boy"と訳していたところですね。

 

 

おすすめ度

 おススメ度は、10段階で

 全体的に良作だと思います。テキスト・BGM・CGがマッチして伝奇モノとして重要なファクターである雰囲気作りに成功しています。タイトル負けしないほどGinkaも魅力的ですし、かなり技巧的なシナリオであったにもかかわらず、これ以外あり得ないという着地を決めたのも素晴らしかったです。特に、エンディングが「あの」シーンで終わることは本作のシナリオ上マストでしたから、寸分違わない着地を決めてくれた紺野アスタ氏には「ありがとうございます!」と言いたいです。もちろん、フルプライスの半額程度という価格を考えれば、コスパも良いです。

 一方で、前述したように主人公が弱いことによって、感情移入が妨げられてしまったのが残念な部分。あのエンディングもRyuseiが自ら引き寄せたものだとは言い難く、どうしても私は少し引いた位置から物語を眺めているような印象になってしまったがために、もう一つ作品世界に没頭することができませんでした。

 総合的に、おススメ度は”Crystalline"と同程度。

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 完成度で言えばGinkaの方が何倍も上ですが、価格差とボリューム差を考慮すると、だいたいこれくらいかと。

 

↑GINKA気になる方はこちらから!

 

 

 

ネタバレ感想

 ※ここから先は、思いっきりネタバレしています。未プレイの方はご注意。

 

 

 

 

 

 

想いは運命を変える

 本作のテーマは難しいですが、パッと思いつくのは「想いは運命を変える」あたりでしょうか。RyuseiとGinkaそれぞれがカタシロに書いた願い、そして神様が心臓を差し出す対価としてGinkaの恋心を奪ったことにより、絶対に2人が幸せになれない運命のデッドロック状態となっているのが本作の前提条件です。その絶望をシナリオの第一部と第二部とで分けて描きながら、どうすれば両者が幸せになれる世界線へ至れるかを探っていくという構成です。シナリオ運びは、第一部ではGinkaがRyuseiを救済し、第二部では逆にRyuseiがGinkaを救済するという対照的なものになっており、その過程で2人の互いに対する想いがたっぷりと描かれる、まさに2人のための物語でした。

 ただここで注意点があって、Ryusei→Ginkaの想いは単純なのですが、Ginka→Ryuseiの想いは複雑なんですよね。これは、Ginkaは神様によってRyuseiへの恋心を奪われていることと、そしてその奪われたはずの恋心が具現化した"ギンカ"が存在するためです。それらの理由により、第二部後半における"銀花"の行動がああいうことになるわけですが、しっかりとテキストを読んでいなければこのあたりの銀花に行動が理解できず、「なんかよくわからない作品」という感想に落ち着いたり、何なら"銀花"にヘイトを溜めてしまったりしちゃうわけです。実際、そういう評もネット上には多かったですね。伝奇部分が複雑だったことも、銀花とギンカの立ち位置という構図を見えにくくする一因になっていたのかもしれません。

 ですが、少なくともGinkaの想いは(銀花であれギンカであれ)どこまで行っても一途な物でしたし、それは物語の中で十二分に描かれていましたよ。

 

第一部:GinkaによるRyuseik救済の物語

 本作の第一部は、神隠しに遭って夢の世界に閉じ込められたRyuseiを、Ginkaが救い出す物語です。ここはとにかくGinka(特に銀花の方)が健気。

 神様によってRyuseiへの恋心が奪われてしまったにもかかわらず、5年間どうしても捨てることのできなかったカタシロ。そのせいで「自分にとってRyuseiとは何だったのか」との自問自答をやめられず、厳しい母に頼んでまでRyuseiを助けにきてしまうんですから。

 さらに残酷なことに、当のRyuseiは、自分が決して思い出すことの叶わない願いの具現化である"ギンカ"と楽しそうに日常を過ごしており、Ryusei自身もその夢の世界を現実だと誤認しているという。

「いや、せっかく助けに来たのに、お前なんやねん!」ですよ。

 幸いというかなんと言うか、銀花はもう恋心を持っていませんので、Ryuseiとギンカとがイチャイチャしていてもそこまで心に来ることはなかったのかもしれませんが、それでも青い花を手折って自分が家にいる合図をRyuseiに送ったり、カレーを何度も食べに来たり、身を挺してRyuseiを護る姿からは、Ryuseiに対する気持ちの全てが消えてしまったようには感じられません。

 ↑楽しかった"ギンカ"との日常を捨て去り、現実に帰る選択をしたRyusei。無垢なギンカにとっての絶望もきっちり描かれています。

 

 ↑ずっと咲かない朝顔は、何のメタファーでしょう?

 成長しない"ギンカ"? ずっと生きられないRyusei? 袋小路のこの世界そのもの? 

 朝顔の花言葉は、「愛情」や「あなたに絡みつく」。RyuseiとGinkaとの間に、この世界では愛情は咲かなかったのでしょうか?

 

 ↑このシーンで下を選ぶと・・・。

 ↑この顔ですよ。

 これ、死ぬ思いをしてここまでやってきた彼女としてはかなりショックでしょう。ここで「"ギンカ"と夢の世界で過ごしていくエンディングも用意するべき」という意見もあるかもしれませんが、いくらなんでもそれは鬼畜の所業じゃないでしょうか(もしあったらごめんなさい。自分が全エンドを網羅したかどうかわからないので・・・)。

 ↑まあ、可愛いは正義ですからね! 第一部のヒロインは"ギンカ"と言わざるを得ない。

 ↑夢からさめたRyuseiが沢田釣具店の前で見たのは、花を咲かせた朝顔。けれど"ギンカ"はもう…。

 ↑直後のこれはキツイ。畳みかけてくるやん・・・。

 なぜ夢の中で入れたはずのカタシロがポケットに? という謎を残したまま、

 ↑Ginkaが消えたオープニング画面にきらめく”NEXT”の文字。演出100点です。

 

第二部:RyuseiによるGinka救済の物語

 現実に戻ってきたRyuseiは島の高校に復帰し、友人たちと日常を営んでいくことになります。ただ、同時に神様の心臓を手に入れてしまったことで、日々刺客に狙われることに。

 ↑無力なRyuseiを護るため、ここからは"ギンカ"ではなく"銀花"と1つ屋根の下で暮らすことになります。彼女はRyuseiへの恋心を失っていますので、間違いが起きることはありません。夢の世界とは似て非なる現実世界を、2人は過ごします。

 ↑Ryuseiによる「滑稽なタコのダンス」で思わず噴き出すGinka。このシーン、人によってとらえ方が異なると思うのですが、私の場合は物凄く悲しくなりました。「ああ、Ryuseiとのあの日々の記憶を持っていないのに、こんなにも同じ反応をするのか」と。この時のRyuseiの気持ちは描写されていないのですが、彼はいったいどう感じたのでしょうね。

 

 そして第二部の後半では、物語の真相がどんどん明らかになっていき、第一部とは逆にRyuseiがGinkaの夢の中に入って彼女を救う展開となります。作中で一番自分に刺さった展開はここからでしたね。正直、この章からの追い込みで本作のおススメ度が一気にアップしました。最初は「7」か、場合によっては「6」にするつもりでした。この時点では"銀花"の魅力がまだ弱かったことも一因です。

 ↑Ginkaの作り出した永遠の世界。Ryuseiのどんな願いも叶えるけれども、「好き」という気持ちだけは叶えることができません。もしその言葉をRyuseiが口にしようものなら、Ginkaによって即座に殺害され、新しい世界に飛ばされてしまう。

 これ、何も知らないRyuseiにとっても、好きな相手から意味もわからず殺されてツライですけど、Ginka側にとっても終わりのない拷問ですよね。好感度を一定以上まで上げると崩壊するシミュレーションゲームをプレイしているかのような。

 ↑"ギンカ"ではなく"銀花"の、四宮の娘としてではない本心を唯一さらけ出せるこの世界は、彼女にとっての「願い」だったのでしょう。しかしこの世界ですら、自分の中に芽生えてしまった一番大切な想いだけは受け入れることも表現することもできないという拷問。

 果ては、「友達のまま」セフレになる世界、Ryuseiと距離を置き座敷牢で「飼う」世界など、そこまでしてでもRyuseiを生かしたい、護りたい、世界につなぎとめておきたいというGinkaの悲しい覚悟と決意が伝わってきます。

 ↑いったいどれだけの世界を作ってきたのか、もうこんな選択肢しか残されていないほど追い込まれているGinka。

 ↑そしてRyuseiも、この世界が何度も繰り返されているGinkaの夢だと気づいています。しかしそれでもRyuseiは、何度でもGinkaに告白します。当のGinkaに「私をあなたの人生の意味にしないで」と拒絶されたとしても、彼にとっての生きる意味はGinkaに他ならないのですから、信念を曲げることはできないのです。

 

 余談ですが、主人公が(愛ゆえに)ヒロインに監禁され、無限ループのような状況に陥るという展開は、他の作品でもいくつか登場します。(ネタバレになるのでタイトルは書きません)。ただ共通して言えることは、その展開は劇薬だということです。ともすればプレイヤーがヒロインを好きになるどころか、逆にヘイトを生んでしまうためです。

 この点、本作では"銀花"と”ギンカ”とが、究極的には1人のヒロインである点を上手く生かしている、と私は感じました。いくら銀花にヘイトが集まろうとも、銀花はギンカでもあるのだから結局はそれも含めて彼女を構成する要素になります。他作品のように、「こんな監禁してくるような自己中なヒロインより、こっちの子の方が良い!」という逃げを許さない、絶妙な設定ですよこれは。

 ・・・と、思っていたんですよ、プレイ中の私は💦

 

 しかし、です。ネットでレビューを見てみると、どうも本作では"銀花"と"ギンカ"とを別人と捉えるプレイヤーも多いようなんですよね。これは正直意外でした。私はずっとこの2人を、「同一人物の2つの側面」だと思ってプレイしていたので。。。

 そしてですね、この2人を別人と考える人にとっては、上述した劇薬が効果を発揮してしまいます。そもそもRyuseiへの恋心だけで構成されるギンカと、恋心を失った銀花ではプレイヤーへの訴求力にどうしても差があります。どうしても"銀花"が不利になるんですよね。それに加えて、実際、本作は事前告知でも第一部でもあくまで"ギンカ"がメインヒロインとして扱われていたにもかかわらず、第二部でそのギンカを殺害した上にRyuseiまでも延々と殺害しまくる銀花が集めるヘイト量といえば・・・うーん。

 この辺り、シナリオを担当した紺野アスタ氏はどう考えていたのでしょう。想定どおりだったのか、誤算があったのか。

 ↑これが・・・

 ↑こうなってしまうの、悲しいですよね。

 ただ、そんなことが起きた理由についても、"銀花"の心情を追っていけば明白なのですが、展開が目まぐるしく変わるために煙に巻かれてしまった人もいるかもしれません。「わざわざ殺す必要あったのか?」と。あったんですよ

 この時の"銀花"は、自分の中に決して表出してはならないRyuseiへの気持ちが新しく芽生えるのを自覚し、悶え苦しんでいます。また"ギンカ"の強すぎる想いがRyuseiを縛り付けているのだと思い込んでもいます。にもかかわらず目の前で、外ならぬ自分自身の形をした少女が、Ryuseiを縛り付けている彼女が、本当は自分こそがそうしたかった振る舞いを無邪気にキャッキャウフフしていたらどんな気持ちになるか…。

 GinkaはRyuseiのために自らの気持ちを犠牲にするほど強い想いを抱えているキャラです。その一途な想いがあるからこそ、この第二部後半の彼女の行動は納得できるものであり、何度殺されてもそれに応えるRyuseiの想いもまた、尊いのだと感じます。

 

 ↑前作に続き、またまたヒロインが大号泣するシーンで「よっしゃああ!!!」と叫んでしまいました。

 ↑そう、このリンゴ飴のシーンこそがマストだったんです。このシーンで物語が閉じるのが、最も綺麗。

 

1人のヒロインを角度を変えて描く手法

 すでにかなり長くなっていますが、もう少し書きたいことがあります。

 本作は、主人公であるRyuseiとヒロインであるGinkaの、互いが互いに対して一途であったからこそ起きた悲劇と、これもやはり一途な想いによってその悲劇を乗り越えハッピーエンドへ至る結末が描かれています。そしてその過程で描かれるGinkaの魅力こそが、本作のハイライト。

 また前作と比較してになりますが、紺野アスタ氏は、「1人のヒロインを多面的に描く」手法に長けているな~と感じます。前作ではAtriというヒロインを、とある手法を使って3つの側面から描いていました↓

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 一方、本作では同様にGinkaというヒロインを、「Ryuseiへの想い」から構成される”ギンカ”と、「それ以外全て」から構成される”銀花”という2人の人間を作り出すことで、多層的に描いていました。

 これって、結構な発明だと思うのですが、どうでしょう?

game.watch.impress.co.jp

 ↑このインタビューで氏が述べている、

でも、まんべんなく受けるようなキャラクターにすると結局は弱くなっちゃうのでどこか尖らせないといけないんですよ。

 この「尖らせないといけない」という制約。だけど尖っているだけでは一般受けが狙えないので、やはり「まんべんなく受ける」必要もある。いかに両者を両立させるか?

 ということで、前者を銀花に担当させ、後者をギンカに担当させるというのが本作におけるこの制約への解答だったわけです。シナリオとキャラ設定とが融和していて、とても綺麗な解ですね。

 

 

 

 

 最後に、本作について思うところをいくつか。これらは、途中までおススメ度を「6」か「7」にしようと思っていた一因です。(結局は、"銀花"の健気さに持っていかれて点数上がっちゃいましたがw)

やっぱりRyuseiの主人公力が・・・。

 上の「よくない点」でも書いたのですが、やはり本作はGinkaの想いはビンビンに伝わってくるのに対して、Ryuseiの方はちょっと弱く感じます。

 ↑一番気になったのがこのシーン。

 ”銀花”が”ギンカ”を斬り捨てた後に、なぜ銀花がそのような行動を取ったのかを、Ryuseiは理解できません。しかもそれを自分で考えるどころか、現場を見てすらいないSoujiに教えられる始末。いやRyuseiくん、それはイカンでしょ。。。

 キャラの役割やシナリオの都合として、こうなるのはよくわかるんですよ。Rin-neeやNazunaが呪いに飲み込まれていく中、Soujiはどこまでも真っすぐで自分の意志が強いキャラですから呪いに負けることもないし、本気で島民のことを考えているだけあって視野も広い。そんな彼が、直接目にしたわけでもないのに銀花が凶行に及んだ理由を理解できてしまうことには、別に違和感はない。加えて、話の作り的に、1人1人と(もしかしたら永遠の)別れになるこのシーンがSoujiの見せ場になるのもよくわかる。

 だけど、ここだけは他ならぬRyusei自身に気付いてほしかった。

 そりゃあRyuseiはまだ高校生で、しかも5年もの間眠っていたのですから、精神年齢が低く女心がわからないのは仕方ないかもしれません。ただ、Ryuseiの生きる理由がGinkaであることを考えると、「あまりにも情けない!」ともどかしく感じてしまい、プレイヤーとしての自分とのギャップを自覚せざるを得ませんでした。

 なんというか、Atriの時と比べてサブキャラを強くした分、主人公にしわ寄せが行ってしまっているように思ったんですよね。絶望的な状況の中で運命を切り開く、Natsukiのような力強さが、Ryuseiにも欲しかった。ラストでHanaの願いを叶えたことで世界はハッピーエンドへと作り替わるわけですが、ここも、たまたまHanaの願い(の形をした蝶)が近くにいたから運良く・・・という感じに読み取れてしまい、努力の結果運命を勝ち取った感がしなかったんですよね。第二部ではあまり彼のカッコいい姿が見られなかったのが残念です。

 

 

Nazunaの「役割を与えられた」感

 本作はサブキャラが立っていますよね。私も、Rin-neeやSoujiがお気に入りです。それぞれに活躍の場もあり、この点についてはAtriの時よりも断然パワーアップしていたと思います。

 ただ、Nazunaについてだけは、ちょっと「装置」感が拭えなかったというか・・・。

 ↑悪魔の誘惑。5年前の彼女の一言が全てのきっかけでこの物語は始まりました。

 身も蓋もないことを言うと、「Ryuseiの心臓のことをGinkaに告げる」役割を与えられたキャラがこのNazunaなんですね。その「お役目様」がいなければ、物語が始まらないからです。

 もちろん、様々な肉付けにより物語に溶け込むようにされてはいますが、それでも、どうしても他のキャラと比較してしまうと、その設定の複雑さも相まって、人間味よりも物語を動かすための装置、という印象が強く残ってしまいました。(私がひねくれているだけかもしれません。悪しからず)

 

 

おわりに

 ネガティブなことも多々書きましたが、間違いなく良作です。GinkaとRyuseiの2人の恋物語の結末を、ぜひ良質な英和併記で楽しんで欲しいです。記事では触れませんでしたが、シナリオだけでなくCGやBGM、声も非常に美麗で、伝奇モノとしての雰囲気も十分です。

 幼馴染と過ごす夏休みをノスタルジックに楽しみつつ、英語の学習もできるなんて最高ではありませんか! 

 

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