作品紹介
Selene Apoptosisは、海外発の短編ホラーノベルです。無料でプレイできるのが嬉しいのと、異様なほど多くの言語に対応しているという特徴があります。
↑ロシア語や、アラビア語にまで対応!
開発元は「Nupu Neko Dev」というところらしいですが、どこの国なのかはわかりませんでした。ネイティブじゃないのであれば、もしかすると英語に不自然な部分があるかもしれません。・・・が、おそらくですがライターはネイティブな気がします。
↑例えばですが、"What's with those questions?"というセリフが登場するんですよね。
でもこれ、日本人である私の感覚だと、withなんて思いつかずに、"What are those questions?"って書くと思うんですよ。そこであえてwithをぶち込んでくるのが、なんともネイティブっぽくないですか?
他にも、本作には↓Distinctionに登場するようなイディオム・スラングがガンガン登場します。その辺りの点を考慮すれば、なんとかんく作者はネイティブなんじゃないかな~?というのが私の想像です。
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・・・知らんけど。
それはさておき、ストーリーについて書きましょう。
フリーライターである主人公は不眠症で悩んでおり、眠れずイライラしている嵐の夜に突然家を訪ねてきた猫っぽい女の子と出会うところから物語が始まります。超短編ですが選択肢によって展開は5つほどに分岐するようです。私が最初に選んだ選択では、主人公が毎晩恐ろしい夢を見たり、日常生活でも妄想のような症状が出るようになったり、いかにもスティーブン・キングを想起させるような展開になった後、わけもわからないままバットで殴り殺される(ちゃんと描写されていないため、正確なことは不明ですが・・・)というラストでした。
何ルートかプレイした感想で言えば、まごうことなき良質の純粋ホラーです。しかも英語・日本語音声選択可能という至れり尽くせりっぷり。
(※ただし、個人的には日本語音声の声が好きです。英語音声は、正直ヒロイン(?)2人ともイラストと声が合ってないのよ)
必要英語力など
推奨英語力:TOEIC900~、英検1級~
ゲームプレイ開始時点の私の英語力は、TOEIC905点でした(英検は受験歴なしですが、複数の語彙診断サイトで8,000語超の評価のため、準1級程度でしょう)。
推奨英語力は、かなり高めです。前述したように、本作はかなりスティーブン・キングを意識した作品になっているんですよね。そして英語版を読んだことがある人ならわかると思いますが、スティーブン・キングの小説ってメチャクチャ難易度が高いんですよ💦
↑この方のノートとか、すごく参考になりますよ。いかにスティーブン・キングの難易度が高いか。
cat burglar:コソ泥、か。
— green cat (@kurukurukurage3) August 29, 2023
このゲーム、結構英語の難易度高い💦基本的に不合理だから、展開の予測がつかずに「流れ」で読み進められない。 pic.twitter.com/L1pWEruH7k
↑キングの小説と同様、このように不合理なシーンばかり登場するので、展開が掴みづらいんですよね。
またもちろん単語レベルも結構高く、英検1級でも登場しないレベルの単語も頻出します。ネイティブが良く使う表現もガンガン出てきます。さらに、特にヒロインであるHopeの英語は平坦な上に早口で聴き取りも大変ですので、音声面でもツライです。
↑随所に挟まる意味不明なシーン。こういうのがいったい何なのか、全くわからない。
筆致はキングっぽく淡々としており、なんとなく「乾いた」印象を受けます。ラノベっぽい文章というよりは、もっと大人向けの文学作品っぽいノリかと。相対的に会話文よりも地の文が、それも主人公の内面に向かう描写が多くなることも含めて、難易度は高いです。
推定プレイ時間:10~20時間
超短編ですので、日本語で1つのシナリオをクリアするだけならルートによっては1時間もかかりません。ただ展開によってプレイ時間に長短があること、難解な英語を読み解きながら進めるなら、1ルートあたり3時間はかかります。私の場合は、展開が良くわからない場面が頻発してしまい辞書を使ってAnkiにぶち込む作業をしまくっていたので、全クリアまでは20時間近くかかりました。
単語的にもシナリオ的にも難易度が高いため、プレイヤーの英語力や理解力がモロにプレイ時間に影響してくるでしょう。
よくない点
どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。
誤字脱字やバグが多い
本作は、とにかく誤字脱字が多いです。
↑この耽美なシーンですが、1行目の"band"は"hand"のミススペルでしょう。他の場面でも同じ単語が2つ並んでいたりと、誤字や脱字が随所に出てきます。ネイティブ特有の表現なのか!?・・・と、勘ぐったりもしましたが、海外レビューを見ると普通にミスのようですw
また、序盤でSeleneを家に入れずに拒絶する選択肢を選んだ場合、本来であればエンディング1に到達するようなのですが、なぜかそうはなりません。厳密にはここはそういう演出なのか、単なるバグなのか不明ですが、エンディングを迎えることなく彼女を受け入れたものとしてシナリオは続いてしまいます。
それと本作はそのままでもエロティックなんですが、公式に18禁パッチが存在します。しかし、なぜかそれを入れると動かなくなるそうですw 以前はちゃんと動いたらしいのですが、アップデート時に何か失敗があったようです。(R5.8時点での情報ですので、そのうち解消するとは思います)
ただsteamの18禁CGを見る限り、本作についてはそういうシーン抜きの方が謎めいた耽美さが余韻を残してくれそうな気がしますね。個人的にはあえてパッチ当てなくて良いんじゃないかと。
↑いちおうリンクを貼っておきます。18禁パッチはこちら。
喋り過ぎなのよ・・・(英語版)
本作は、数あるホラーノベルゲームの中でも格段に怖いです。それは、きめ細かい仕掛けや雰囲気づくりによって、耽美さと恐ろしさとの同居に成功しているためです。
↑本作のタイトルにもなってるSeleneちゃん。エロティックでしょう? その上恐ろしさも併せ持つんですから ただ、その耽美さの象徴であるはずのこの子が、異様にテンション高くベラベラベラベラ、アホみたいに喋りまくるんですよ・・・。英語版は、どう考えても声優ミスってます。
こういうことをされると、せっかくそのシーンまで徐々に盛り上がっていた恐怖が、一気にしぼんで白けてしまいます。私はちょうど、彼岸島のあのシーンを思い出しましたよ。
↑こ・・・怖ぇええ・・・。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↑どうしてこうなった・・・。
おすすめな点
とまあ、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。
恐ろしさと耽美さの両立に成功している
さて、本作は上述の声優問題を抱えてはいるものの、基本的にホラー部分はメチャクチャに怖いです。それも、洋画特有のいきなりビビらせる類のチープな恐怖ではなく、むしろ邦画のように徐々に真綿で首を絞めつけてくるような、今までの日常が段々としかし着実に「この世の物ではない何か」に浸食されていくかのような、そんな丁寧な恐怖。まさにスティーブン・キングの小説を、ノベルゲーというプラットフォームの長所を生かしきって表現しているのです。
そして同時に、ホラーと相性の良いエロについても盛り込まれているわけですが、これがまた上品なんですよ。エロというよりも「耽美」という単語がぴったりハマるのではないでしょうか。だから、本作に18禁パッチは要らないんですよ。Saltheとかだとシナリオにエロが絡んでくるから当然それアリでプレイした方が良いわけですが、本作の場合、別にセックスしようがしまいがどうでも良いですからね。むしろ18禁シーンの一枚絵は下品なものもあり、耽美さをぶち壊してるとさえ思ってしまいます。
↑ところで、こいつのいったいどの辺がcatなんですかね? このように、ヒロインであり恐怖の象徴でもあるSeleneは、なぜか終始地の文でも「猫」として語られます。三人称視点なのに、です。確かに、2階の窓から出入りしたり床に零したミルクをなめたり、首輪をつけていたり、彼女の行動は猫そのもの。
じゃあ、なぜイラストはどう見ても人間なんでしょうね?
ネイティブ会話文が満載
冒頭で書いたとおり、本作は開発元がどこの国かは不明ですが、ネイティブなのはほぼ間違いないでしょう。それほどいわゆるスラングがガンガン登場するのですが、これは特に妻であるHopeとの会話で顕著です。
↑I'm open with you.:私は包み隠さずに話しているわ。
↑It didn't come off well.:楽しい時間を過ごせなかった。
↑That's drive me nuts.:気が狂いそうだよ。
こんな風に、単語レベルでは簡単なのに知らないと意味が取れない日常表現を、ふんだんに覚えることが可能なんですね。しかも音声付きで! 私は、distinctionで予習していたお陰で、いくつかの表現は読んだ瞬間に理解できました。ただそれでも知らない表現が多すぎて、かなり辞書を引きましたが💦
ところでこのHopeの声優さんは、英語版だと声がめちゃめちゃ低いんですよね。イラストから想像する10倍くらい低い。発音は流暢なのですが平坦で、たまに字幕と違うことをしゃべってることも相まって非常に聴きとりづらいです。リスニング力向上には役立つかもです。
おすすめ度
おススメ度は、10段階で9です。
クオリティは極めて高いです。シナリオも練りに練られてるし、耽美だし、めちゃくちゃ怖いし、何より無料だし。
多少難点があるので満点にはなりませんが、難点を補って余りある、深みのある作品です。
まとめ
英語多読用としては相当にレベルの高い、スティーブン・キングを彷彿とさせる極めて良質なホラーです。乾いた筆致で丁寧に雰囲気を紡いでいくことで、恐ろしさと耽美さの両立に成功しています。
誤字脱字等の多さ、またSeleneのテンションが高すぎることで一部雰囲気をぶち壊してしまう部分が残念ですが、それらの短所を補って余りある魅力を備えた作品です。
※いくらなんでも短編すぎるため、今回ネタバレ感想は書きませんでした。
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