
↑この記事の続き。杏珠ルートの感想を。後半ネタバレです。
よくない点
どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。
・・・と思ったけど、ないんですよね。このルート、悪い点がほとんど。
あえて言うなら、序盤はバンド描写が少なく、主人公と杏珠の内面・あるいはセッションに重きが置かれがちなため、最初のうちは「バンド感」がやや薄いことくらいですが、終盤に向けてバンドの存在感は大幅に増しますし、そもそも別にバンド感が薄かろうがシナリオとしてずっと面白いので、もう「欠点なし」と言っちゃいたいところです。
正直なところ、杏珠は共通ルートを終えた時点で既にダントツの推しキャラだったので、贔屓目にはなっていると思います。中盤はどんな方向にでも展開できるシナリオ運びをしていましたが、結局はシリアスになり過ぎず、かと言ってコメディに寄らせるでもない、ちょうど良い塩梅で思春期特有の悩みを描いていましたね。そこの評価は人によって分かれるかもしれませんが、シナリオの質は高かったので、もう好みの範囲でしょう。
おすすめな点
はい、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。
人物造形の強さ
まず何より、杏珠のキャラが徹底的にプレイヤーウケを狙った造形だと言う点です。自己肯定感の低さ、不器用さの出し方、対人関係の苦手っぷりなどなど。表で見せる“からかい気質”や軽口の裏側に、褒められた時の脆さ、評価を受け取るのが本当に下手な素顔が潜んでいるという設計。強がりの皮一枚をめくるとすぐ赤面してしまうギャップが、保護欲を引き上げます。個別ルートでは、杏珠は「主人公と似ている」という描写がよくなされていますが、これは私の想像ですけども、仮にTSしたとしたら多くのプレイヤーは杏珠みたいになると思うんですよ。だからこそ、彼女が報われることを自分事としても期待してしまう。
しかも本作は、18禁シーンまで利用して彼女のキャラクター性を高めていますからね。私は、あえて年齢制限つきのゲームを作るのであれば、そこに根拠がなければ嫌なタイプです。だって年齢制限を付けることで確実に裾野は狭まるわけですから、だったらそのマイナスに対する補償がなければ割に合わないじゃないですか? もしわざわざ18禁にした癖にその意味がないんだとしたら、平たく言えばそれマーケティング的に失敗してるでしょって。
思えばこの辺り、ゆずソフトはかなり気を遣っていますよね。例えばリドジョのMayuルートでは、18禁シーンに超重要な問題解決の糸口をぶち込んで来るという離れ業をやってのけました↓
他にも、同じリドジョで言えばAyaseルートでは、プレイヤーに「ここから行為に入るんだなあ」と思わせておきながら、あえて入らない(代わりにAyaseというキャラを描くために利用する)という、あくまでもキャラを描くための手段として18禁シーンを利用したりもしていましたよね。
今回はそれと似たパターンです。「行為中でも貪欲に、キャラ人気を高めるための努力を惜しまない」という方向だったという違いはありましたが。杏珠の、“謝っちゃう癖”や雑魚マ××は、彼女の根にある性格と、プレイヤーの「こうあって欲しい」という認知傾向を最後まで一貫させたことの現れでしょう。実に、“都合のいいヒロイン”として、相当な完成度を誇っていたと思います。
さらに、行動力と臆病さが同居しているのも良いですね。たとえば、
「演奏してみた」動画を投稿してみる(挑戦)→ 反応を見て一気に不安になる(臆病)
ゲリラ配信で同接60を叩き出す(挑戦)→ 本人は“失敗”だと思い込んで消したくなる(臆病)
主人公と二人で路上に立つ(挑戦)→ クラスでは「友達が少ない」と自覚し、関係づくりに躊躇(臆病)
この前に出る勇気と一歩引くウジウジした不安の往復が、彼女を“あり得そうな同じ年の子”の解像度まで落としてきます。
加えて、決定的に効いているのが、Another Viewの使い方。このルートは彼女の内語を頻繁に挟む構成で、「褒められるのが怖い」「受け取れない」「でも認められたい」という心のバイブレーションを、その瞬間の言葉の温度で共有させてくれます。恵凪ルートではあえて封印されていた手法だからこそ(他ルート未プレイなので、現段階では恵凪ルートしか比較対象がありません)、杏珠のこの葛藤がダイレクトにプレイヤーの心に刺さるんですね。
総じて、台詞・行動・視点の全部で同じキャラクター性を指し示す——この一貫性が、杏珠を絶妙に魅力的なキャラクターに押し上げているのだと、私は感じました。もちろん、ちょっと地雷系の入ってるキャラデザも言わずもがな、プレイヤーウケはかなり良いでしょうし。
“悩み → 並走 → 答えの輪郭”の積み上げが丁寧
杏珠ルートの芯は、「自分らしさ」を探す長い試行錯誤にあります。これ、恵凪と同様、モチーフとしては地味なことこの上ないんですよ。つまり雑にやったら一気に安っぽくなるところを、本作は時間とイベントをきちんと使って説得力を積んでいます。
序盤から中盤にかけて、彼女は色々なことに何度も挑みます。動画投稿、生配信、主人公と二人だけの路上……。「一歩進んで二歩下がる」。結果に一喜一憂し、褒められても真正面から受け取れず、でもまたやってみる。ただ、ここで大切なのが、どのチャレンジも杏珠個人、または主人公と2人だけ(少なくとも彼女の意図した範囲では)という小さい単位でのチャレンジだということで、バンドとしての活動ではないんですよね。しかしながら、その結果には、毎回“他者との相対”が必ず混ざってきます。クラスの反応、路上での視線、詳しい友達の批評、ファンのコメント、そしてバンドの基準。
つまり、本ルートは個人の内省だけでは輪郭が立たない作りになっており、最終的には「自分らしさは他者との相対でしか見つからない」と総括されます。そしてそのことは、主人公もまた同様です。 杏珠が悩んでいる間、主人公は似た資質を持つ相手として横に立って並走し、時には彼女の魅力をプロデュースしようとするものの、それはそれで傲慢なのではないか?などと自らの中で思い悩みます。でも、それだといくら考えても答えは出ないんですよね。
そんなこんなで、2人は時に空回りし、時には互いにあるいは周りから刺さる一言をもらい、またある時には自分の言葉で否定し直し、だんだんと“足元の地面”の手触りに気づいていきます。具体的なオチは伏せますが、「最後に見つけた答えが、実は最初から足元にあった」という手触りは、単に灯台下暗しという話ではなく、それまでの丁寧な積み上げがあったからこその説得力で語られます。ここでもまた、Another Viewが、外からの刺激に対する杏珠側の“瞬間の揺れ”を逐一可視化する役目を果たしています。
そうしてついに迎えたラストライブシーンでは、序盤に体験した“とある出来事”と対になる瞬間が用意され、彼女が「もう同じ場所にはいない」ことを観客にも自分にも納得させるという描写がなされます。2人の物語としても、バンドの物語としても綺麗な幕引きでした。
おすすめ度
おススメ度は、10段階で10です。
これは共通ルート、恵凪ルートも含めてのおすすめ度ですが、さすがにもう10にせざるを得ないです。私が10を付ける基準の1つは、「物語が終わった時に『ロス』を感じるかどうか」なのですが、本作は、キャラゲーとしてはサノバ以来、初めて感じています。まだ2ルートしかクリアしてないのに。
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ネタバレ感想
※ここから先は、思いっきりネタバレしています。未プレイの方はご注意。
せっかくなので恵凪ルートと比較しながら、感じたことを書いていきます。正しい解釈かどうかは知りませんが、あくまで私の現時点での解釈ということで。
テーマの核
恵凪:バンドは“救い”。母子の断絶という重い私事を、音楽=言葉(作詞)で乗り越えていく物語でした。曲は個の痛みを昇華するための灯火で、バンドはその灯を守る“場”として機能します。一方、主人公にとっても恵凪の存在は過去を乗り越えるキーでした。主人公とヒロインは、支え合います。2人は向かい合っているようなイメージですね。
杏珠:バンドは“居場所”。重い過去がないわけではないですが、シナリオの柱は思春期の自己肯定感や「自分らしさ」の揺れが中心です。曲は“みんなで混ざって輝く”ための拠点への宣言で、バンドは“居住地”として描かれます。主人公とヒロインは、長い期間の並走を経た上で、最後に支え合いへ合流。2人は隣に並びながら、前を向いているようなイメージです。
叙述の方法
恵凪:彼女の内面は、主に対話と行動、そして歌詞の開示で“外から”読ませています。Another viewを使用しなかったのは、彼女の内面(両親の離婚関連)をプレイヤーに隠匿する意図?
杏珠:Another viewを多用し、褒められなさ・受け取り下手・承認への渇きといった“瞬間の揺れ”を逐語的に共有させます。ここが、着地までの長い長い旅路の説得力を高めるになっています。
ライブ/演出の軸
恵凪:ネット越しの一方通行(双方向で反応が返ってこない)という“もどかしさ”を舞台装置にした救済。
杏珠:鏡像演出。初期ライブの“彼女がピックを落とし→主人公がカバー”に対し、終盤は“主人公側のトラブル→彼女がカバー”。また、路上ライブでの意地の張り合いなどを別の文脈で再配置して、関係性の成熟を見せます。
歌が担う意味
恵凪:本人が書いた言葉で“特定の誰か”に届かせる、きわめて私的な歌。
杏珠:杏珠を理解した、しかし“我”を出した主人公が、彼女の色と皆の色とを混ぜ合わせる歌。役割の拡張を明示。
まとめ
杏珠ルートは、「キャラクター造形」と「シナリオ運び」と「楽曲」が三位一体で嚙み合う、完成度の高い章でした。
彼女は動画投稿・生配信・路上演奏など単独でできる挑戦を重ねながら、一歩進んでは二歩下がる。そのたびにanother viewが“受け取り下手な心”の揺れを可視化し、プレイヤーは評価ではなく“途中経過”に付き添うことになります。一方、主人公は答えを押し付けず、似た者同士の横走りで余白を保つ——この並走の設計が、終盤の納得感を支えました。
新曲「RGB」について。赤・青・緑は、メンバーそれぞれの特色を表していると解釈できます。3色しかないですが、タイトルが長くなりすぎるとテンポ悪いのでそれは仕方ないかと笑 さて、この色が混ざり合って白になるという比喩は、単に“調和”を謳っているのではないでしょう。RGB加法混色のイメージ通り、一人では到達できない輝度にチームで上げていく、という“技術的比喩”でもあります。
前半の歌詞が描くのは「濁りくすんだ空」「二番煎じかもしれない」という自己像の曇り。ここで重要なのは、曇りが“個室の鏡”ではなく、他者との相対の中で生じていることです。
たくさんの出逢いを繰り返しては/凸凹あわずに削り削られ/やっとちょっと見えた欠片
このあたりは、杏珠ルートの縮図でしょう。ぶつかり・摩耗し・それでも残った輪郭こそ“いまの自分”。“自分らしさ”は孤独な内省だけでは輪郭が立たず、関わりの中で初めて見えることを表す歌詞です。
そして後半で歌は明るい方向へ。
タイトルが色の三原色ではなく光の三原色である理由は、このバンドが、杏珠や主人公にとって差異を活かして照度を上げてくれる居場所だからです。だからこそ結句は「自分らしさって結局いつもここにある」。探し続けていた“らしさ”は孤高の天辺ではなく、この混色の真ん中にあったのだと——そして最後の「眩しいほど白く空を照らせ」で、私的な肯定が公共の輝きへ拡張されます。ここで“白”は無色ではなく全色を抱えた最大値。恵凪ルートが“特定の誰かへ届ける光”だとすれば、杏珠ルートは“みんなの色で空の明るさそのものを上げる”光です。
総じて、恵凪ルートが「救いとしてのバンド」なら、杏珠ルートは「居場所としてのバンド」。前者は"言葉で過去からの救済を遂げる”歌、後者は"混色で居場所の明度を上げる歌。シリーズ体験としては、どちらが上という話ではなく、二枚で一対のレコードのように並べて響く。その関係性が、とても美しいと感じました。
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