
↑この記事の続き。月望ルートの感想を。後半ネタバレです。
よくない点
どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。
地獄のような寒すぎるノリ
本ルートを語る上で避けて通れないのが、地獄のように寒すぎるノリです。シリアスでもギャグでもなく、ただただ寒い。しかもその寒さが、最初から最後まで続く。
まず挙げたいのは、序盤で登場する「つきみバーガー」ネタ。ヒロインの“月望(つきみ)”という名前にちなんだ下ネタの一例ですが、問題はそれが単発ではなく、似たようなノリが延々と続くことです。「びちょびちょ」だとか「なめとってやる」だとか、言葉の選び方があまりに雑かつ露骨。18禁作品なので別にそういうネタ自体が悪いとは言いませんが、“エロ”ではなく単に“気持ち悪い”域に達してしまっている。
↑連発されるクソつまらない下ネタ
しかもこの手の会話、どれもテンポが悪い。ライターはアンジャッシュのコントのようなすれ違い系のギャグを狙っているのでしょうが、展開が広がらないまま並列的なボケを繰り返すだけで終わっているので、クオリティは本家と比べるべくもありません。
早い話が、脚本家がひとりで空回りしているんですよね。コントをなめるなと言いたい。
さらに問題を深刻化させているのが、キャラクター同士の掛け合いの古臭さです。会話のテンポ、ノリ、言葉の選び方が、まるで平成初期の深夜アニメ。作者が昭和~平成の世代で止まっているような古さが全編に漂います。
いわば「おじさんが頑張って若者っぽいノリを書いてみた」ような寒さです。

↑キャラクター同士の掛け合いの例。だが、ノリが平成…。
そして極めつけは、しつこいパロディの乱発です。有名アニメやゲーム、ネットミームの引用が次から次へと登場する。一発ギャグとして挟む程度ならともかく、ここではそれがシナリオの地の文にまで侵食しています。

↑繰り返される痛々しいパロディ。
これらの寒ノリ地獄が序盤だけで終わるならまだ我慢できなくもないんですが…。本ルートでは、これが終盤までずっと続くんですよ。これが地獄でなくて何なのか。
断っておきますが、本ルートには、ララジャム全編を通しても「屈指の名シーン」と言える場面があります。たぶん、プレイした方は満場一致でそう評価する、本当に素晴らしいシーンだと思います。なのに、ですよ。その直後に劣化パロディやクソつまらないギャグが挟まることで、プレイヤーの感情の流れはバッサリ途切れてしまいます。本当に白けるし、感情の波を削ぐ構成になっているんですよ。プレイヤーがようやく感情を込められそうな瞬間に、別方向から冷や水をかけられるようなモノです。
結果、感情の山場が一度も生まれず、「なんか気づけばエンディングを迎えていた」という虚脱感に包まれました。
深刻なキャラ崩壊
本ルート最大の問題点の1つに、キャラ崩壊が挙げられます。月望に関しては別に良いんですよ。彼女のルートですからね。そこはもうライターが好きにすれば良いし、実際彼女のキャラはかなり攻めたものになっており、むしろ「良かった点」に入れたいとさえ思います。このルートで問題になるのは、月望以外のキャラ崩壊です。




↑これは作曲に悩む主人公を莉々子が茶化すシーンですが…。こんなこと言いますかね、彼女。

↑これとか。一度それと知らずにディスったことで傷づけてしまった恵凪の歌詞を再度擦るという所業。ギャグにするにしても、平成どころかもはや昭和のノリ。

↑こっちは主人公がキャラ崩壊。

↑ついには衛哉まで。恵凪のくしゃみの音が可愛いから、聞きたいそうで…。

↑挙句の果てには月望のピアノの先生まで…。
これ、ギャグシーンだけかと思うかもしれませんが、違います。シリアスなシーンですら、主人公含め月望以外のキャラクター性が他ルートと大きく異なる場面が多発するんですよ…。キャラクターの行動や言葉が、物語のテーマや感情の流れと結びついていない結果、登場人物たちは「ライターが書きたいノリを動かすためのコマ扱い」としてしか存在していないんです。本ルート序盤で意味ありげに登場した「AI」になぞらえるなら、まるで「AIがプロットの隙間を埋めるために喋らされた」かのような、人格の漂白が起きています。
しかも厄介なのは、このキャラ崩壊がシナリオ構造上まったく必要とされていないこと。百歩譲って、物語を成り立たせる上で「どうしてもこのキャラはこういう性格でなければならない」という必然性があるなら、まだギリ理解はできますよ? たとえばキャラ同士の衝突を演出するためとか、主題の対比を強調するためとか。
しかし本ルートにはそのどちらもない。崩壊したキャラの言動が、テーマや物語の展開に貢献していないのです。つまりこの改変は、構造的にも意味がない。脚本家が自分のやりたい「ノリ」を優先した結果、物語の内部整合性を犠牲にしただけの産物。
月望という繊細なキャラクターを描くという本筋から、周囲の人間がすべて浮いてしまっています。
結果として、本ルートではキャラクターたちが物語の登場人物ではなく、「シナリオの構成要素」としてしか存在していません。終盤までこの不整合が放置されたまま、静かに物語が閉じていく。本ルートの失敗は、キャラが崩壊したことそのものではなく、
崩壊を意味づける努力が一切なかったことにあります。それは脚本家の怠慢であり、「キャラ」に特に重きを置く本ブランドの根幹を否定する行為でした。

↑解釈違いはこっちのセリフですが…?
あと、ついでに言うなら。キャラだけじゃなく文体までも、本ルートだけが突出して他ルートと異なるんですよね。異常なまでに会話文が多く、地の文が少ない。また、わずかな地の文も、情景描写ではなくほとんどが主人公の心情の吐露にしかなっていないがために、全然周りの状況がわからない場面が頻発するんですよ。要は、このルート、他ルートと比べて入って来る情報量が酷く少ないんです。

↑こういう独白ばかりで、周りの情景とかキャラクターの心情とかの描写不足が顕著。
日常シーンではライターの「ノリの良いポップな会話」を書きたいんだろうな、という意図は伝わるんですがね…。それと引き換えに他の部分が疎かになっています。しかも、その頑張って書こうとしているポップな部分も上述のとおり痛々しいので、トータルで見ても良い点がないという。
そういうわけで、本来であればシナリオの転換点かつ名シーンになったはずのchapter8の2人だけの合宿の時点で、こちらはすでに白けてしまっていました。ここまでマイナスがドギツすぎると、流石にもう挽回は無理です。恵凪ルートも終盤の入り口までずっと退屈ではありましたが、少なくともキャラ崩壊とかノリの痛さみたいなものはなかったので救済されたわけですが、こっちはもう…。断片的に良いシーンが入っても、直後に劣化パロディとか崩壊したキャラ達によるコントが入ってくると全部台無しになるんですよ。
共通ルートの焼き直し
本ルートの物語構造で致命的なのが、中盤までの主題が共通ルートとほぼ同一であるという点です。つまり、主人公の創作上の悩みが再び「他人の曲に似ている」「パクリではないか」という「影響問題」に集中してしまっている点ですね。これ自体がシリーズを通しての主題の一部であるならまだしも、本ルートではそれがまったく新しい角度から掘り下げられていない。ただ同じ素材を、もう一度温め直しているだけなのです。
共通ルートでは、「他者の影響を受けること」と「自分らしさ」の境界をめぐって、
主人公が一度悩み、メンバーの助言によって前進しました。つまり、そこではすでに主人公は作曲者としての危機を一度乗り越えているんですよ。にもかかわらず、この月望ルートでは、まったく同じ悩みがほぼ同じ描写構成で繰り返され、心理的深化がありません。前回と違うのは、傍らにいるヒロインが月望になったという一点のみです。
しかも、この「パクリ問題」パートの分量が異常に長い。主人公は延々と悩み、考え、議論し、苦しみますが、そのすべてがプレイヤーには既視感として映ってしまうんですよ。前作業をもう一度リプレイしているような感覚。
そのため、物語としての初動の引きがまったく効かない。本来、「2人きりの合宿」に至る頃には2人の絆が十分に描かれていて、そこで満を持してあの名シーンへ…という流れになるのが理想のところ、いつまでも共通ルートと同じことをやっているもんだから、作中の2人と物語を眺めているこちら側の気持ちとに深刻な温度差が生じてしまっていました。シナリオ構成上の大きな失敗と思います。
まあ、ただし、ここには一応の救済措置が用意されています。主人公が悩み抜いて一度はボツにしようとした曲が、主には杏珠の手によって再アレンジされ、より良い形で完成するという展開に繋がったことですね。つまり、バンド全員の力で過去の問題を再構築する。この点だけは、共通ルートを上回るチームとしての音楽描写になっていました。個の迷いを集団の力で越える、という構図は悪くありません。さらに、シナリオ終盤では主人公がとあるバンドメンバーと出会うことで、一歩進んだ答えに辿り着いた点も、評価できると思います。
しかし、それでも根本的な問題は解決していません。だって、もう遅いから。主人公が「他人の影響を受けた曲」をどう扱うかというテーマは、すでに共通ルートで一度完結しています。だから、本ルートでは、もっと早い段階で他の要素を加えなければいけなかったんです。終盤ではダメなんですよ。せめて、2人きりの合宿シーンまでには方向性を示しておかないと。
一度やった内容を掘り返すなら、もっと深い洞察か、別の角度を描くべきです。そして実際その方向性は終盤に少しだけ提示されましたが、その展開はあまりに遅く、前半の既視感を払拭するには至らなかったというのが、本作のシナリオにおける最大のミスです。
結局、この焼き直し構成によって、本来であれば月望のキャラ描写や2人の関係の深化に割かれるべき尺がまるごと使い潰されてしまっています。しかも、それがシナリオの新規性に寄与しないどころか、プレイヤーのテンションを下げる方向に働いてしまっているという。
「共通ルートを再利用してはいけない」という単純な話ではなく、問題は、「同じ題材を使って、中盤までに何も新しく語れていない」という点に尽きます。
結果的に、本ルート中盤は「前に進んでいるようでまったく進んでいない時間」として過ぎていきます。そこに緊張も発見もなく、ただ既知の悩みを反芻するだけ。唯一新しいのは、プレイヤーが「またこれか」とため息をつく経験くらい。それがどれほど丁寧に書かれていても、根本が既視感に支配されている以上、シナリオとしては停滞したままなのです。
おすすめな点
はい、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。
最も音楽に真面目に向き合ったシナリオ
本ルートの最大の功績は、音楽という題材そのものに最も真面目に取り組んだ点にあります。キャラクターやノリの面での崩壊は多々あれど、音楽の描き方だけは徹底して実直。そこに関しては、他のどのルートよりも「音」を物語の中心に据えようという姿勢が感じられます。
まず特筆すべきは、創作過程の描写の細かさです。他ルートでは、主人公が作曲に悩む姿については描いていましたが、最終的な提示の仕方はあくまでも曲ができた、ライブで披露した、というある種省略されたものになっていました。一方このルートでは「曲ができていく過程そのもの」を丹念に描いています。
特にChapter8、月望との二人きりの合宿で行われる共同作曲シーンは圧巻。ベースとピアノを交互に鳴らしながら、一音ずつ重ねていくように旋律を作り上げていく。主人公の頭の中にある断片的な音を、月望とのセッションの中で現実の音として形にしていく反復の描写。そのプロセスが、言葉よりも音で通じ合う関係性として美しく機能しています。

後ろで流れる静かなピアノBGMも、シーンにマッチして素晴らしかったですね。ここについては、描写・演出・BGMが三位一体で創作の熱を体験させてくれる。
本作における音楽描写の到達点と言ってよいでしょう。まごうことなき名シーンでした。
また、このルートは音楽に対する姿勢のリアリティが群を抜いています。
「音楽は感情の発露ではなく、積み重ねの結果として形になる」という認識。それは月望がピアノに対して感じていた惰性・停滞の描写にも現れています。彼女はかつてピアノを好きだった自分を見失い、練習を続けるうちに音楽が楽しくなくなってしまっていました。それが、バンドとの関わりを通して再び好きを取り戻していく。
つまりこのルートの音楽は、才能やセンスよりもむしろ、再生と再発見の物語として描かれています。創作を題材にした作品として、これほど誠実な方向性はないでしょう。
さらに注目すべきは、「影響」と「独自性」という音楽的テーマの整理の仕方です。前半で扱われた「パクリ問題」は、共通ルートの焼き直しではあったものの、その後に訪れる終盤の展開は、本ルート独自の視点でした。この作品が一貫して追い求めてきた「表現者の成長」の一つの解答になっているとさえ言えるでしょう。
総じて、本ルートの音楽描写には浮ついたドラマ性がありません。どんなにギャグが寒くキャラが崩壊し、シナリオが焼き直しであろうと、音楽という一点にだけは誠実。この点においてだけは、他のどのルートにもない誠実さがありました。
類を見ないキャラ造形
本ルート最大の異彩は、月望のキャラ造形にあります。他ルートでは、彼女は強さの片鱗は見せながらも大人しくあまり目立たない存在として描かれていましたが、本ルートではその印象を大胆に刷新。それまでは断片的にしか見えなかった「熱」と「弱さ」が、物語を通して初めて表に出てきます。
まず特筆すべきは、彼女の強さが現実的であるという点です。月望は個別ルートで武闘派ヒロインと評されるほど気丈ではありますが、決して「強いから悩まない」タイプではありません。むしろ、理想と現実とのギャップゆえに常に葛藤しています。ピアノの練習が惰性になっていく中で、「音楽が楽しくなくなった自分」への苛立ちを抱えながら、それでも続けてしまうというリアルな停滞感を纏っています。
そんな彼女のキャラが強烈にに印象的なのは、やはり合宿シーンでのピアノ指導でしょう。月望は主人公に対して、音楽理論を教えるでも、感覚で支えるでもなく、「一緒に音を作る」姿勢で向き合います。これは他のルートにはないシーンで、その立ち位置の違いが月望というキャラの静かな強度を支えていると言えます。
さらに、月望というキャラクターは、葛藤の質そのものが独自です。恵凪が「言葉にできない想い」、杏珠が「自分らしさ」、莉々子が「関係の変化」をそれぞれテーマにしていたのに対し、月望の軸は「続けることの意味」。夢を続ける、練習を続ける、音楽を続ける、言い換えれば「継続の苦しみ」を描くルートは稀有です。一瞬の才能ではなく、積み重ねによって形づくられる音楽家の現実。この「継続者の苦悩」というモチーフが、彼女を唯一無二の存在にしています。
武闘派で、いたずらっけもあり、しかし必ずしも強いわけではない。そんな彼女のキャラクターが、ルート全体を通して、プレイヤーに「これが本来の月望なんだ」と思わせるだけの説得力をもって描かれていました。
おすすめ度
おススメ度は、10段階で10のままです。
しかしこれは他ルートも含めてのおすすめ度で、このルート単独では6です。
つまり、本ルート単独だと、点数は以前プレイした↑『赤い狼と、ぐろてすく』と同じになりました。『あかぐろ』はというと、ミステリにしては粗が多い一方でキラリと光り輝く部分もあって、同人作品とはこうでなければ!という力強さを感じさせてくれる力作です。
で、月望ルートはですねえ、上述のとおり良い点は素晴らしいのですが、それを食いつぶしても足が出て来る悪い点が酷すぎて、挽回のしようがありません。ただ良い点はやはり良いのでそこまで悪い評価というわけでもなく、トータルで6点に落ち着いた、という感じですね。
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ネタバレ感想
※ここから先は、思いっきりネタバレしています。未プレイの方はご注意。
好き放題やった割に、見返りがゼロだったな──というのが、端的に言えば本ルートの印象です。あそこまで月望以外のキャラクターを崩壊させたのであれば、シナリオや演出のどこかでその正当性が担保されていないと、プレイヤーとしては「え、じゃあなんでそんなことしたの?」という戸惑いしか残らないわけです。
では、シナリオ自体が優れているのかといえば、別にそんなことはないわけで。
本ルートは、自作曲のオリジナリティに悩む主人公が、後半で「たとえ自分の曲が誰かの影響を受けたものだったとしても、それを受け入れ、今度は自分たちの音楽で“次の誰か”に影響を与えられるようなバンドになればいい」と気づく──そんな、共通ルートより一歩先の解答に辿り着く物語です。
その境地を月望との関係の中で導き出す、という点自体は非常に良い着地点ですよ。
音と真摯に向き合ってきたルートの到達点として、筋は通っている。
ただ、ここからが問題です。
ちょっと話は逸れますが、私がこのルートをプレイしていた頃、ちょうど「キングオブコント2025」が放送されていたんですよ。
で、うるとらブギーズのネタを観たとき、私は「ああ、月望ルートはまさにこれだな……」と感じたんです。
あのネタは、父親と息子の二人芝居で進行していくんですが、息子役の方が序盤からちょいちょい「セリフを噛む」んですよ。で、その「噛み」こそがネタの仕掛けであり、物語の核になっている。構成的にも極めて優れた設定でした。
しかし、本番でよりにもよって父親役の方が序盤でセリフを噛むという致命的なミスを犯してしまったんです。で、結果は周知のとおり。
観客は「ああ、この人たち、こういう構成をやりたかったのね……それは分かる。でも、そこを噛んじゃったらもう……」という空気になってしまい、会場全体が一気に冷え込みました。中盤から終盤にかけてネタ自体はきっちり展開していくのに、たった4分間でグルーヴ感が戻るわけもなく。舞台上の二人だけが上滑りし続ける、あの取り返しのつかない地獄。
はい、月望ルートはそれと同じなんです。
序盤で完全に物語に入り込めないから、「二人きりの合宿」の、あの名シーンに辿り着く頃には、既にプレイヤー側の熱が冷め切っている。ただシーン自体はやはり素晴らしいので、だから一瞬、こっちも「おっ、ここから巻き返すか?!」と期待する。なのに直後にまた寒すぎるギャグや崩壊した他キャラの茶番が始まって、せっかく積み上げかけたものをライター自らが台無しにするという誰得展開。
以降はもう、自分の知っている顔をした知らないキャラたちが壊れたテンションで喋っているだけで、後半の重要要素であるハイエンズの話が出ても「ふーん」で終わってしまい、感情のグラデーションが一切ないという。
極めつけは、ハイエンズ後の蛇足です。シナリオのラストで月望がウィーン留学に悩むという展開を持ってきましたが、これ必要でしたか?
音楽モノで「お金持ちのお嬢様」が出てきたらウィーン行きはお約束。離別で悩むのもお約束。案の定、本作も特に捻りがない。
しかも構成的に見れば、ハイエンズとの対話から主人公が答えを出すシーンこそが、このルートの瞬間最大風速だったわけですよ。共通ルートを踏まえつつ、それまでの月望との関係性の中で、バンドとしての一歩先の成長を描けた数少ない瞬間なんですから。
だからこそ、あえてその後にウィーン行きという「お約束」展開を置くなら、その上を行くツイストがあるはずだと思うじゃないですか。
なのに、いざ蓋を開けてみれば母親との対話は中途半端に省略、意味深にぼかされた内容が結局は「ネットで練習を続けます!」とか「月に一度は帰国します!」みたいな、想像の範囲内すぎる展開。そして最後は、全員でウィーンに乗り込んで「俺たちの戦いはこれからだ!」エンド。いや、「ここで終わるんかーい!」って、悪い意味で驚愕しましたよ。終盤まで寒ノリと蛇足の連続。

↑リアルタイムでの正直な感想がこれです。ウィーンとか出すくらいなら、序盤で複数回言及していたAIの話に繋げてくれたらグッと新鮮だったのに。
ウィーンの街角でのセッションは伏線はありましたけど、こんな雑に消費されて終わるとは想像していませんでした。「音楽には真摯なのに、物語には誠意がない」──そんな印象を最後まで拭えない、残念なルートでした。
まとめ
月望ルートは、音楽に対して最も真摯で、最も不器用だったルートです。音作りの過程や、演奏の意味、創作への姿勢、月望というキャラクターといった描写はシリーズ随一。にもかかわらず、そこに到達するまでの物語構成がまるで追いついていない。他ルートとの整合性も取れず、キャラの崩壊が物語を壊し、寒いノリが余韻を奪う。音楽への誠実さを示すための舞台が、あまりに雑然としていた印象です。
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