作品紹介
KEYから2004年に発売された本作は、プラネタリウムを舞台にした青年と少女との短い交流を描くノベルゲーです。プラネタリウムが題材ということで、星々のきらめく可愛らしい物語なのかと思いきや、まったくそんなことはありません。
世界は戦争により荒廃した近未来。奇跡的に空襲を免れたプラネタリウムが存在しているのは、30年前までは都市だった廃墟の中。そして少女の正体は、人ひとりいなくなった狭い世界に取り残されたロボットです。彼女は世界が戦争でボロボロになり人間が激減したことなど知る由もなく、来る日も来る日も、現れるはずのない来館者をプラネタリウムの受付で、30年間待ち続けているのです。そこへ、食料や武器を求めて主人公である男が迷い込んだことで物語は動き出します。わりと硬派で、「泣き」が約束された設定だということが伝わるでしょうか。
大手の会社作品ですから当然絵は美麗です。シナリオも単調ながらさすがに頑丈ですし、最後の盛り上げは流石。音楽は・・・うーん、個人的には当たり外れが大きいかなぁ。超短編で、英語版でもプレイ時間が10時間を超えることはまずないと思います。字幕は複数の言語から選べますが、音声は日本語限定です。この点は、英語学習という観点から見るなら残念ですね。ただ声優さんがとても良く、聞き惚れてしまいます。やはり日本人声優はスキルがブラッシュアップされてる感がありますね。
色々書きましたが、泣きゲーとしてのクオリティは保証しますし、廉価であることを考えればこの短さでもお釣りが来るでしょう。また本作は様々なメディアミックスがなされているらしく、とりあえずゲーム版をプレイしてから手を広げるかどうかを考えてみても良いのではないかな?とも思います。
※私はKEYの作品がまとめ売りセールをしている時に購入しました。定期的にあるようなので、そのタイミングを待って購入するとより安く入手できますよ!
必要英語力など
推奨英語力:TOEIC860~、英検2級~
ゲームプレイ開始時点の私の英語力は、TOEIC905点でした(英検は受験歴なしですが、複数の語彙診断サイトで8,000語超の評価のため、準1級程度でしょう)。
いちおう推奨英語力は"Doki Doki Literature Club!(DDLC)"と同レベルにしましたが、実を言うとPlanetarianの単語レベルはDDLCよりもかなり高いです。単語レベルが上がっている原因は、ひとえに舞台が特殊だからですね。戦争と天体関連の単語が頻出することに加え、SFならではの、日本語だですら馴染みのない専門用語がいくつも登場することが理由です。この点、ギャルゲ的な学校が舞台のDDLCは平易ですから。
#Planetarian
— green cat (@kurukurukurage3) July 23, 2023
2文目以降、未知の単語が出過ぎて意味不明💦
立ち絵とシナリオの流れでなんとなくはわかるし、こんなんイチイチ調べてたらいつまで経ってもクリアできないもんなあ。 pic.twitter.com/Wj6o6X13ip
↑こんな風に、英検準1級くらいの語彙力では、全く太刀打ちできない場面がそこかしこに登場します。なんなら英検1級のパス単にも出てこない単語だって大いに登場しますからね💦
あとそれと、ヒロインのロボット少女である「ほしのゆめみ」が、ロボットであるがゆえに主人公の問いかけに対してズレた返答をしまくってくるのも難易度上昇に一役買っていると言えます。だから、単純な語彙レベルで言うのなら英検2級ではちょっとキツイ。
とはいえ、ですよ。
- 選択肢のない一本道の短編ゲームであること
- 音声が日本語であること(少なくともセリフは全て理解可能)
- シナリオの核はあくまで主人公とヒロインとの触れ合いであること
・・・これらを鑑みると、理解不能箇所がいくつかあったとしても、途中でシナリオがわからなくなるなんてことは起きえません。ということを踏まえて、総合的なレベルは"Doki Doki Literature Club!(DDLC)"と同程度と判断しました。
推定プレイ時間:5~8時間
私の場合、プレイ時間は8時間程度でした。知らない単語や表現が出てくるたびに辞書を引いてはAnkiにぶち込む、という作業を繰り返しながらのこのプレイ時間ですので、私より英語力が高い人は5時間もあればクリアできるのではないでしょうか? 日本語版だと3時間以内でクリアしている人も多く目にしますし、そんなものでしょう。選択肢もないですし。
よくない点
どんな作品でも、良い点と悪い点がありますからね。両論併記はさせていただきます。良かった点は後から書くとして、まずは悪かった点を。
・・・といっても、悪い点を探すのが難しいくらいに完成度の高い作品なんですけどね💦
日本語音声
これは英語学習用としてとらえた場合の話ですが、 やはり音声が日本語なのはかなり痛いです。実際には文法力が足りずに読めていないのに、耳から日本語訳が入ってきてしまうことによって、あたかも実力で会話文が読めちゃってるような気がしてしまうんですよね。残念、それは錯覚です。日本語音声に惑わされず、知らなかった表現はAnkiにぶち込むなりノートに書きとるなりして、地道に暗記しましょうね。
日常シーンの音楽はちょっと・・・
本作、音楽がピンキリです。まあ私は音楽に関してはド素人ですのでこんな言い方をすると失礼かもしれませんが、それでも日常シーンのヘッポコな曲たちはいったい何なんでしょうか。いや、わかりはするんですよ。ゆめみのどこか抜けたキャラを強調するためだとか、暗く重苦しい世界観に対しての清涼剤のような意味合いであえてこういう曲を持ってくる、という意図は。だけど、それでも自分の耳にはキツかったです。物語の大部分が日常シーンであることもあって、何十分間も同じ曲を聴き続けることになるのは正直・・・。
展開が速い
これもこじつけ感はあるんですが💦
最初はゆめみに対してぞんざいな態度をとっていた主人公が徐々に心を開いていく、というテンプレ展開でシナリオは進むのですが、ちょっとデレるのが早すぎないかな?とは正直思いましたw 終末世界とはいえ日常の積み重ねで大きな事件は起こらない中、食料が尽きかけそうになってるのに、何日もかけて懸命に投影機を修理し続ける主人公に行動には少し疑問を覚えました。ただ星の見えない世界ですから、主人公自身、なんとしても一度で良いから満天の星空を見てみたかった、という想いもあったのでしょうね。
おすすめな点
とまあ、よくない点はこれくらいにして、次は良かった点について。
あくまでロボットとして描かれるゆめみ
こういうヒロインが1人しかいないゲームだと、そのキャラにハマれるかハマれないかが評価全体を大きく左右します。その点において、ゆめみというのはかなり面白いキャラです。
そもそもロボットキャラというのは描写が難しいものだと、私は思っています。こういう人間とロボットとの交流を描いた作品自体は今まで無数に出ていますが、下手な作品だと、ロボットらしさが全くのゼロで「それって別にロボ設定いらなくね?」となることもあれば、逆にあまりにも無機質すぎて感情移入のしようがないこともあります。または、それらを両立させようと頑張った結果、序盤は無機質ロボなのに途中で「奇跡」が起きてヒロインの中に心が芽生える(ロボットなのにね!)、というありがちな展開になっちゃったりすることもよくありますよね。
しかし、本作のゆめみはそうじゃありません。彼女はあくまでもロボットです。これは初登場時からエンディングまで一貫しています。ですので、類似した場面に出くわすと、毎回同じ反応・同じセリフを返しますし、どんな場面においてもいわゆるロボット三原則に沿って行動します。そして人間らしいからではなく、ロボットらしいからこそ、物語後半でプレイヤーは名状しがたいやるせなさを感じることになるのです。ゆめみは自分をロボット、主人公を人間としか考えず、人間のために働くことを至上の喜びとしているのに対し、主人公もあくまでゆめみをロボットだとしか認識していません。そこに恋愛要素なんてものは皆無です。普通に考えれば、ここからどうやって感動させるんだろう?と疑問に思うところです。なのに、まさかロボットらしさそのものを逆手にとってプレイヤーの心を震わせに来るとは思いませんでした。ゆめみには、人間の心が(真には)理解できないからこそ、人間であるプレイヤーには、ゆめみには決して見ることのできない残酷な姿が手に取るようにわかってしまうんですね。
また、そんなゆめみも時たま人間らしい行動を取り、それがスパイスのようにプレイヤーの感情移入を促進します。冒頭で、プラネタリウムの来館者数の鯖を読むシーンなんかは、彼女にインプットされた性格を端的に表していますね。だってロボットが数字の鯖を読むんですよ?面白過ぎるでしょw メチャクチャ人間っぽいけど、プログラム組めば再現できそうな妙なリアリティよ。サポートセンターに繋がらないことに対して、「少しだけ心細いです」と冗談めかして言ってみるシーンもグッときますね。
泣きゲーとしての完成度
単純に、シナリオの完成度が高いです。誰がプレイしても「傑作」だと思います。
終末世界でのボーイ(ガイだけどねw)・ミーツ・ガール、それも最初の最初から別れの結末を予感させての導入、主人公とヒロイン2人きりの触れ合いの日々、主人公の心の再生、命を懸けた戦闘、30年ぶりに出会った人間と数日間を一緒に過ごしたヒロインの独白、主人公の決意・・・。
かなり広く、細かく練りこまれた世界設定なのに、たった1つの街の中、ゲーム内時間でたった数日間の中に起承転結を綺麗に詰め込んでいて、ものすごく贅沢な作品なんですよ。メディアミックスされるのも当然です。
↑雨が降り続き、星どころか太陽さえ見えない世界。プラネタリウムに投影された偽物とはいえ、満点の星々を生れて初めて目にした主人公の気持ちは・・・。それも自分自身が修理した機械で。
↑プラネタリウムの電気は切れ、もう二度と上映することはできない。そしてゆめみ自身の充電も。
ロボットヒロインだからこその感動
※以下、思いっきりネタバレしています。未プレイの方はご注意。
"We are robots. Therefore this is a promise that we can never forget.
And to keep it is our honor as robots."
ゆめみはロボットなので、人間の役に立つことを「誇り」だと認識しています。だから彼女はその本能に基づき、自らシオマネキ(主人公を砲撃してきた自立式の戦車的な敵)を止めに入り、結果として自身が破壊されてしまいます。
↑自分を破壊した「ロボット」にさえなり代わり、主人公に謝罪するゆめみ。
「ロボットが人間に危害を加えることなどあってはならないのだから、それをしてしまったシオマネキは、自分と同様に『壊れていた』に違いない」のだと。
しかし、彼女が「誇り」だと認識しているものは結局のところ、人間が彼女に埋め込んだ、作り物の「本能」にすぎないんですよね。やるせなさを感じざるを得ないシーンです。
↑ゆめみの記録の中の、館長たちがプラネタリウムを去るシーン。こんな破壊力ある場面を、最後の最後でこれまでかと放り込んでくるんだから、さすがの泣きゲーブランドですよ。彼らがゆめみを「同僚で友達」だと認識していることだけが、救いです。
ところで、昔主人公とタッグを組んでいた老人って、もしかしてこの中の1人なんじゃないのかな?と想像してみたり。「ロボットには気を付けろ」なんて忠告をするくらいなんだから、彼はきっと昔ロボットに心を奪われた経験があるんだろうし。
そして一番私の心に刺さったのが・・・。
↑ずっと自分自身のことを「少し壊れている」と言っていたゆめみ。しかし、最後の最後に真実に気づいてしまいます。本当に壊れていたのはゆめみではなく・・・。
そして彼女は言います。「あと1度だけ記録が可能です」と。数日間を彼女と過ごし、今まさにその最期を看取ろうとしている主人公は、いったい何を語りかけるのでしょうか?
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まとめ
傑作も傑作。
リスニングの練習にならないという難点は仕方ありませんが、単純に素晴らしい作品をプレイしたいなら、断然おススメの短編ノベルです! 隙間時間でプレイしても数日で終わりますので、ぜひ一度やってみてください。
ちょっと本編が切なすぎるしまだまだこの世界を食い足りないので、私はこれからメディアミックスの方にも手を出そうと思います。
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