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【高品質だが】ほんやく検定に初挑戦!【オワコン】

 

ほんやく検定に初挑戦!

 私はいちおう、アニメ・ゲームの和英・英和翻訳や、暗号資産関連の和英・英和翻訳家として副業をしています。しかしながら、あくまでも自称翻訳家であって、何か自分の実力を客観的に証明できるものが一つもなかったんですよね。

 それでも仕事をして、大きな不満をクライアントからもらうでもなく、お金を支払っていただいているので特に問題はないわけですが、なんとなく「私は翻訳家だ!」と自信満々で宣言するのに躊躇していたのは事実です。

 というわけで、受けてきました。ほんやく検定!

翻訳の需要が各方面で高まる中、翻訳者には「商品価値の高い」翻訳力が求められています。現職の方はもちろん、将来実務翻訳者をめざしている方も、ぜひ一度日本翻訳連盟(JTF)が実施するJTF<ほんやく検定>を受験して、自身の客観的な翻訳力を試してみましょう。「インターネット受験」システムにより、申込から受験まで、すべてオンラインで行なうことができます。実用レベル2級以上に合格すると、JTF加盟の翻訳会社(220社)から実際の仕事を獲得する機会が広がります。

 というのが公式HPで謳われているところです。

 受験は自宅から可能ですし、分野も複数から選択が可能ですので、受験ハードルは結構低いです。ただTOEICや英検と比較すると知名度も受験者数も低すぎ・少なすぎて、この検定で上位の級を取得できたとしてそれにどの程度説得力があるのかは不明だったりで、これまで受験してこなかったんですね。何より、未だにグダグダと理由を付けて生成AIを使用させないなど、時代遅れ感が甚だしいですし。

 まあでも、モノは試しということで、今回はチャレンジしてみる運びとなりました。こんな業界に入ろうと思ったわけですからそれなりに自信はありますが、純粋にAIなしの自分の実力も気にはなりますしね。

 

私のほんやく検定結果

 (この項目は、試験結果が出たら追記します。)→R7.9.22追記。

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イキってすみませんでしたぁ!

ごめんなさい、1級合格したやろ、って信じて疑っていませんでした。結果確認した時は目を疑いましたね…。

 

しかし、隠すわけにもいかないので、開示しておきます。

残念なことに、これが現在の客観的な自分の実力だったようです…。不合格にならなかったということは、最低限構文や文法が取れていない――つまり英文が読めていないことはまずないはずなので、問題は翻訳力にあるはず。ということで、地道にそこを鍛えていくこととします。

いや、ショックですね、普通に。

 

試験の内容について

 実際の出題文や私の解答自体をここに掲載するのはさすがに問題があるので、書ける範囲で書いておきます。

概要

項目

概要

実施分野

①政経・社会 ②科学技術 ③金融・証券 ④医学・薬学

⑤情報処理

級別

翻訳の完成度に応じて1~3級の合格または不合格を判定。

合格者には「翻訳士」の称号を授与。

試験構成

実翻訳問題 ×1 題を制限時間内に訳す

出題原文

ニュース記事・専門誌・企業技術資料・製薬レポートなど

合格率

下記、2023年受験者データ 参照

評価基準

「商品として通用する翻訳であるか」

※明言されてはいませんが、おそらく「翻訳品質評価ガイドライン」に沿っていると考えられます。

資料の持込

オンライン試験のため自前 PC で辞書・ネット検索可。ただし機械翻訳は禁止。

※下記参照

実施時期

年 2 回(1 月・7 月の第 4 土曜)。

 

 ↑公式サイトより引用。

 当時は4級・5級というのも存在したのですが、現在では廃止されています。受験者数がかなり少ないですね。1級合格者の少なさと、和英翻訳の難易度の高さが目を引きます。

 

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 ↑試験2日前に、日本翻訳連盟から受験者宛てに配信されたお知らせ。「受験者の能力によらず、翻訳文の品質を向上させる行為」は禁止されています。それまでも似た文面は、WEBサイトに記載されていましたので、このお知らせが来た時も、「ふーん。特に変更なしか」くらいの印象でした。

 

問題内容

 受験者は、試験開始時には上述した①~⑤の全お題の内容を読むことが可能です。そのため、事前には「①政経・社会」を選択するつもりだったけれども、実際の問題を見ると「②科学技術」の方が簡単そうに見えたなら、その場で「②科学技術」を解く判断をしても良い、ということです。

 ただし、問題文はわりと長く、例えば英和翻訳の英文は1000単語弱くらいはありますので、途中まで訳してから「これはやっぱりや~めた!」とやるのは、あまりおススメしません。最初から2~3分野に絞っておいて、ある程度原文分析をした段階で、「キミに決めた!」としてしまった方が、結果的には良いものが作れると思います。

 

 内容は英和・和英いずれも時事問題が多く、現在の政治経済や金融市場の状況、あるいは最先端の科学技術や医学・薬学について普段から学んでいれば、それほど突飛な印象は受けないでしょう。ガチガチの「その道のプロ」向けの論文などは出ませんが、「でう・ます体」で訳すような柔らかい文章も登場してきません。ですので、ニュースを観ていない人、報告書などを読みなれていない人にとっては、苦戦するかもしれません。想定読者は「大学生(学部生)~一般の知識人」あたりだと考えると良いかと思います。

 

 3時間という時間制限は、集中力をいかに維持するかが勝負です。一口に「翻訳」と言っても、大まかには「①原文分析」→「②リサーチ」→「③ストラテジー」→「④翻訳」→「⑤校正」という流れを経るわけで、3時間のうちのこの5パートを全て終わらせることになるので、どのパートにどの程度時間を割くかは当人の戦略次第、ということになります。この点、自分が精通している分野であれば、「リサーチ」→「ストラテジー」→「翻訳」あたりを爆速処理できるため、かなり有利に戦いを進められるでしょう。


 

 なお、これは、↑名著『翻訳スキルハンドブック』に記された流れに準拠しています。内容はかなり平易ですが、翻訳者にとっての基本中の基本が詰め込まれている、まさにバイブルですので、必ず読破しておくことをおススメします。

(※ここについては、生成AIに翻訳を任せる場合であっても、絶対に自分のスキルとして身に着けておかなければいけません。将来的に大ミスの原因になり得ます。)

 

 

試験を通しての感想

率直な感想

 受験直後の私の率直な感想は↓のポストの通りです。

 一日経って見返すと、辛辣なことを書いていますね笑 しかし事実です。ただ、最後にフォローを入れていますが、問題の質自体は良かったと思いますよ。時事問題として面白い内容が多く、興味をひかれながら読み進められましたから。

 また、翻訳する際に悩む部分がどのパートにも含まれていて、それこそちゃんとリサーチしなければ定訳を逃してしまったり、誤訳してしまう恐れがある箇所を問うてくる内容になっていました。一方で、(私の選んだパートは)単語、構文、文法レベルはそれほど高くはなかった印象で、例えば京都大学の入試問題なんかと比べると、相当平易でした。つまり、原文の難しさよりも実務翻訳で使えるかどうかを判断することを重視しているんですね。

 

ぬぐえない時代遅れ感

 はい、ここからは再度辛辣にいきますよ笑

 何度も言いますが、この試験は時代遅れ甚だしいです。オワコンです。今回私は試験ルールにのっとって、訳文の作成に生成AIを使用していないことを誓います。しかしながら、実務の場面において、生成AIを使用しないことなんてまずあり得ません。つまり、本試験は実務環境から、まったくかけ離れているんですよ。

 

 ↑連盟からのお知らせ、再掲抜粋。

 

 連盟はこんなことを言っていますが、生成AIを使用することで「著作権侵害の疑義が生じる」なんてことが、どの程度起き得るか知っていてこう書いているんでしょうかね? 訳者が関連法規をきっちり勉強していれば、著作権を侵害するような場面を回避することは容易ですし、そういった法規を学習することは、生成AIを使用する者の義務とすら言えます。むしろ連盟側が生成AIについての勉強を避けていませんか?

 そして、「実際の業務においても機械翻訳の利用が禁止されている場合がある」という部分。ここが一番引っかかったんですけど…。これっていったいどんな場合なんでしょうか。クライアント側が禁止する場合しか思いつきませんが、そういうクライアントに私は今まで出くわしたことがないです…。普通は禁止する理由がないですからね。

 逆に、クライアント側は禁止していないにも関わらず、会社側が勝手に使用を禁止しているのだとすれば、それはプロダクトの品質や納品速度をいたずらに低下させる行為であり、大問題だと言えます。このご時世、社員にエクセルを使わせずに電卓を使わせ続けている会社なんて、いったい誰が信用しますかね?

 

現代の翻訳フロー

 そもそも、現代の翻訳は、旧来の方法とは全く異なる手順で行います。↓に、私が普段行っている翻訳方法を一例として挙げましょう。あくまでも一例ですよ。比較しやすいように、古い翻訳方法も並べて再掲しますね。

 ①まず、原文分析~ストラテジーは一連の流れで行えるので、生成AIのReasoningモデルに完全に任せます。原文の長さにもよりますが、非常に高い精度で、しかも数秒間で原文分析を終え、妥当なストラテジーを立ててくれます。Reasoningモデルは非常に論理的に筋道立てて物事を考えますので、必要な情報を与えて制約条件を狭めれば狭めるほど、信頼性の高い結果を生成してくれるのです。

 

 ②次に、リサーチには生成AIのDeep Research機能が超有効です。細かいテクニックを駆使してチマチマgoogle検索を続けていた頃を思うと、生成AIはたった数分~十数分のうちに驚くほど精密な検索をやってのけます。ハルシネーションの疑念はあるでしょうが、それは人間によるgoogle検索でも同様です。どうも反生成AI派は、人間の能力を過大評価する傾向にありますが…。④の段階で私自身がチェックするので、仮にハルシネーションがあっても疑義は解消されます。むしろ、Deep Research機能は参照元のURLまで貼り付けてくれるので、信用のおけるサイトなのかどうかのチェックは、人間によるgoogle検索と比較しても容易です。

 

 ③さらに、翻訳そのものを生成AIに全投げします。人間の何倍もの速度で、一定以上の品質のものを作成してくれるからです。ここで①原文分析&ストラテジー、②リサーチの手順をきっちり踏んでいることが効いてきます。この①②の手順を踏まずにいきなり③を行うと、反生成AI翻訳家が主張するような、想定読者や定訳を無視した品質の低い訳文が生成される確率が上がります。しかし、①②を踏んでいれば、的外れなものが出て来ることはほぼありません

 

 ④ここで、初めて人の目が入ります。原文と訳文とを照らし合わせながら、逐一チェックします。いくら賢いと言っても、生成AIはたまに勘違いを起こしたり、「あえて原文を訳出しない」判断を行ったりする場合があるからです。不自然な語彙の選択をしている場合も、たまにあります。大事なのは、こういう疑義があった場合に、いきなり修正するのではなく、なぜそういう訳出を行ったのかをまず生成AIに問うことです。生成AI側が正しく、自分側が勘違いをしている場合も往々にしてあるためです。基本的には「自分よりも生成AIの方が賢い」と考えて差し支えありません。もちろん、それでも何か所かは不自然な箇所が残りますので、より適切な訳を選んだり、全体を調整したりする必要はあります。ここは完全に自力です。だから、「原文の構文が取れない」とか「文法がわからない」とかのレベルだと論外です。最低限の英語力は、身に着けておきましょう。

 

 ⑤最後に、複数の生成AIに原文と訳文とを読ませることで、疑似的にセカンドオピニオンを行います。生成AIにも人間にも見落としや錯誤は当然ありますので、複数の目でチェックすることは必須です。実際、chatGPTでは発見できなかった細かいミスをClaudeが発見したこともありますし、chatGPTとClaudeがスルーした部分を、Geminiが「重大な誤訳」と判定してきた事例もあります(この時は私もビビリました。私の最も得意な「アメリカ経済」の内容であり、しかも④で私がチェックした段階でも誤訳があるなんて夢にも思わなかったためです。しかし、Geminiの主張をよくよく読み込んで壁打ちしてみると、Gemini側が勘違いを起こしていることが判明しました。つまり元々のchatGPTの訳の方が正しかったのですが、ただ、その誤解は人間の読者であっても何パーセントかは起こしえる内容であったため、私は注釈を加えることでその誤解が起きないよう訳文を修正する判断をしました)。

 

 とまあ、私の普段の翻訳方法はだいたいこういう感じです。実際には、クライアント側や会社側から提供される用語集やルールが優先される場合もありますので、その時は適宜フローの調整が必要となります(それでもNotebookLMを利用するなどで、従来よりもかなり効率化できますが)。また、旧フローで行っていた納品前チェック(ここで示す流れ外)は、もちろん行います。

 

 それでも、この新フローのやり方で、chatGPT、Gemini、Claudeの3種類の生成AIから揃って「90点」以上と採点されるところまで訳文を仕上げてから納品すれば、実務翻訳の分野においては(それこそ、WEB上に情報が落ちていない、最先端の科学技術の内容でもない限り)、全工程を人間が行うよりも、ほぼ間違いなく高品質な出力が、しかも超高速で可能です。

 このように、旧フローはとっくに過去の遺物になっていることがわかるでしょう。現代の翻訳力とは、「本人の翻訳力×生成AIを使いこなす力」の掛け合わせで算出されるのが明らかですので、「本人の翻訳力」しか判定できないほんやく検定もまた、アンモナイトのような存在に成り下がっていると言えます。

 

翻訳系検定の今後

 ということで、もはやオワコンのほんやく検定なのでした。

 …と、ここで終わっても良いのですが、それでもなおこういう翻訳系の検定を存続させたいのだとすれば、連盟側は大きな方向転換が必要です。具体的には、3つほどの選択肢が考えられます。

 ↑ポストでは複数に分けて記載しましたが、つまり以下の3つです。

 

①生成AIでは上手く対応できないよう出題を工夫する

②生成AI使用前提で、訳文の完成度に加えて「速度」も評価対象にする

③「実務翻訳」以外へ転換する

 

 さらに③というのは、具体的には↓のポストのようなことです。

 文芸やエンタメ系に登場する英文/和文は、生成AIでは対処できないようなユーモアがふんだんに盛り込まれていますので、そこを出題すれば良いのです。採点も難しくなるでしょうが、本人の実力差がくっきりと表れますよ。

 実際、アニメやゲームの翻訳で私が最も難しいと感じているのが、こういうダジャレだったり、「元ネタ」のあるセリフなんかです。生成AIを封じられる上に、本人のセンスやリサーチ力も試せて、一石二鳥ですね。

 

 まあでも、実務翻訳の方向で進めたいのなら、②が妥当になるんでしょう。旧態依然とした連盟に、そんなガッツある決断ができるかはわかりませんが…。オワコン検定がオワコンではなくなる日が来ることを、期待せずに待っておくとします。

 

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