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組織の硬直化と“自称イノベーター”という病『会社の老化は止められない』(細谷功)

会社の老化は止められない。: 宿命にどう立ち向かうか : 細谷 功: Amazon.com.au: Books

はじめに:会社は老化する。それは宿命であり、同時に闘うべき敵

 細谷功氏の『会社の老化は止められない』は、日本的組織が抱える根源的な課題、すなわち"老化"をテーマにした警鐘の書です。私はその主張に大筋で賛同しています。組織は時間とともに複雑化し、制度や文化が硬直化し、かつての成功体験が足枷となります。私自身、総務部で会計やVBA業務に携わる中で、組織が老いていく姿を日々目にしています。しかしながら、本書には決定的に欠けている視点があると感じています。

それは「自らをイノベーターだと信じ込んでいるアンチイノベーター」の存在です。私はこの“偽イノベーター”こそが、真の改革を妨げる最大の障害だと考えています。

 

組織の老化は不可避であるという真理

 本書が示すとおり、組織の老化は自然現象に等しいものです。エントロピーは増大し、制度は複雑化し、人は新しいものを拒絶するようになります。ルール、会議、稟議、細分化された役職と部署、冗長な承認プロセス……これらは全て組織の自己防衛機能であり、同時に破滅への坂道でもあります。「ルールは資産から負債に変わる」という指摘は的を射ています。

 しかし、その過程において忘れてはならないのは、“老化した制度”を支えているのが常に「保守的な個人」であるという点です。そして彼らはしばしば、自分を“正義”や“現場代表”と信じて疑いません。

 

労働組合という「組織されたアンチイノベーター」

 特に典型的なのが、「労働組合」的な存在です。その理念を否定するつもりはありません。労働者の権利擁護、待遇改善、声なき声の代弁。それらは社会的に意味ある活動です。しかし現実には、老化した組織の中でイノベーションの芽を摘む側に立っていることがあまりに多いと感じています。

 例えば、定型業務の自動化を進めようとすると、「属人化を防げ」と言いながら、実は自らの仕事が不要になることを恐れて反対します。

 あるいは、「職場の民主主義を守る」と言いながら、変化を試みる管理職を“敵”に仕立て上げ、全体の議論を空転させます。「現場感覚」や「合意形成」という言葉を盾に、実質的には既得権益の防衛に専念しているのです。私から見れば、これは明らかに老化そのものを擁護しているのであり、イノベーターではありません。むしろ、イノベーションの敵です。

 こうした組織的アンチイノベーターの厄介な点は、彼ら自身が自分を正義だと信じ込んでいることにあります。彼らは自己を“反体制”と思い込んでいますが、実態はただの「保守の牙城」です。

 

真のイノベーターとは何か

 私は自分自身を“常にイノベーターでありたい人間”だと定義しています。それは目立つ変革者である必要はありません。むしろ、日々の業務の中で小さな違和や不合理に気づき、仕組みを変えようとする意志こそが、イノベーションの本質であると考えています。

 Excelマクロで1つの作業を自動化する、会議の要らなさを訴える、重複ルールの統合を提案する。そうした小さな「非連続的変化」を積み上げることが、組織の老化に抗う唯一の道だと思います。

 しかし、組織の中にはこうした動きを「出る杭」として叩く空気が確かにあります。問題は、その“杭を叩く側”に、変化を叫ぶ労組的レジスタンスが紛れ込んでいるということです。彼らは制度改革やIT導入を、「現場を軽視する上からの押し付け」として批判し、旧来の働き方を“守るべき文化”に仕立て上げます。ですが、それは破綻しかけたレガシーを温存しているに過ぎません。

 

総務・経理の現場から見える「変化と抵抗」の構造

 私の立場(総務部門・会計・VBA活用)から見ると、こうした構造は日常的に観察されます。たとえば:

  • 月次処理の自動化に対し、「機械に頼るのは危険だ」という声が上がる

  • 承認プロセスの見直しに対し、「決裁権の軽視だ」と反発される

  • 業務の標準化に対し、「多様性がなくなる」と主張される

 これらの声の裏にあるのは、不安と保身と惰性です。そして、その多くは労組的な構造の中で“正論”として流通しています。つまり、進化を求める人間が、組織の中で孤立する構図が出来上がっているのです。

 

必要なのは“健全な異端”を育てる文化

 真の組織変革は、トップダウンのビジョンと、現場からのイノベーションが融合した時にのみ起きます。そのためには、“異端”をあえて内包する覚悟が必要です。組織が異物を排除してばかりでは、やがて自らも滅びてしまいます。

 ですが、偽のイノベーター――すなわちレジスタンスを気取る保守勢力を、真の異端と混同してはなりません。変化を止める者が「改革者の顔」をしている組織は、最も危ういのです。本当に変化を求める者は、自らの既得権を明け渡す覚悟がある者でなければなりません。

 

おわりに:変わらぬ敵は、外ではなく内にいる

 『会社の老化は止められない』は、多くの読者にとって“会社あるある”として受け入れられる内容だと思います。しかし、私が加えたい視点は、「敵は老化現象だけではない」ということです。敵は、老化と闘っていると自称しながら、その実それを守ろうとする“内なる保守”なのです。

 だからこそ、真のイノベーターでありたい私は、自らの立ち位置を問い続けなければならないと感じています。「自分は本当に変化を促しているのか」「単に役所的な仕事に居場所を作っているだけではないか」――そう自省しながら、それでも前に進もうとする人間だけが、会社という老いた船を少しでも前に進められるのだと、私は信じています。


 

 

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